「あれ、誰、君」

俺は、その白髪頭の奴を凄く見ていたらしい。

「俺は…自販機に補充する、土方だ…。あんたこそ、誰だよ。怪しい奴か?」

先生かとも思ったが、記憶のどこにも白衣を着ている先生など居なかったし、だいたいにして、こんなに白髪の先生もどうかと思う。

「失礼な。れっきとした大江戸高校国語教師ですよー」
「はぁ?!」

思わず。そう、思わず、だ。素っ頓狂な声が出た。
だって、そうだろう。国語教師なのに、白衣。全くもって理解できない。だって、理系ならまだしも理解は出来る。実験終わりなのか、とか。それが、国語教師ときた。全く持って意味不明だ。

「ほんと、土方くんは失礼だなあー。俺、坂田銀時。よろしくな」

そうやって、赤い目を細めて笑った。 綺麗だ、と思った。


「お、おう…」
「白衣はね、格好良いから着てるんだよ」

差し出された手に、断る理由もないいので素直に握手した。すると、そう言われた。
顔に、出ていたのだろう。人一倍、顔に出やすいから。昔、総悟に注意された記憶がある。

「そう、…なのか…」

未だ納得はできないが、もう理由を聞くだけ無駄だろう。
きっと、こいつは本当に”格好いいから”という理由だけで白衣を着ているのだろう。そう、直感する。

「ねえ、土方くん。その水、もらっていい?」
「え?あ、ああ…いいけど」
「やったー!」

目に見えて喜ぶ坂田。
そして、俺の足付近にあったうちの1本を一気に飲み干して、2本目も開けて、今度はゆっくり飲み始めた。

「松平校長に…追っかけまわされてたのか?」
「そう!もう、しつこくて…」

確かに、あの人はしつこい。特に娘の栗子関係になると、尚更だった。昔、言い寄られた時も、お前にはやらんだとか、お前がたぶらかしただとか、それこそ退学までさせられそうになった。
まあ、それは近藤さんと総悟のおかげでなんとか免れたのだが。それも今となっては良い思い出だ。

「ほら、土方くんも飲みなよ」
「おう」

俺が買ったのもだが…まあ、経費で落ちるし問題ないと飲み始めた。

もう7月も中盤に差し掛かっていて、夕方とはいえ凄い暑かった。何せ、人の居ない購買部には冷房なぞついてるはずがないから。
暑さのせいでぬるくなった水を、ゆっくりと飲んでいく。

坂田がベンチに座ると、隣に座れと促してきた。
時計を見ると、ちょっとだけ時間があったから、素直に従う。


「土方君は、ここの卒業生?」
「え…どうしてそれを?」
「いや、なんとなく。さっき、とっつぁんの話したらさ、すぐ分かったし…それに、その後思い出し笑いしてたから」

恥ずかしくなる…
そこまで顔に出ているなんて。初対面で、よく分からない男の前で。



「ところで、土方君、ストレートなんだね…」
「え、あ、まあ…」
「俺なんかさあ、天パーなの!ほらみてよこれ!もう酷いと思わない?!今日なんか湿気が多いからボリュームも倍なの!いいよなあ、ストレートは。ストレートってだけでイケメンさが5倍だからね」
「何だ、それ」

よく話が飛躍して、よく舌が回る。こういう奴は昔から嫌いだった。だけど、なぜだろう。坂田のそれは嫌いではない。むしろ、こっちも喋りたくてウズウズしてしまうような、不思議な感覚になった。

「ところで、坂田の髪は白髪か…?」
「…どうして?」
「松平校長に追っかけまわされる日々だから…苦労とか、」
「ぶっ!」

真剣に考えて出した答えに、坂田は思いっきり笑いやがった。
そして、目に涙を溜めながら「これ銀髪だよ。自前」って説明してくれた。

気になっていたので、触らせてもらうことにした。


触ると、ふわふわとしていて、それでいて綺麗だった。
銀髪がしかも自前となると、こんなに素敵なんだとは思わなかった。


「綺麗だな…」
「え?」
「俺、お前の髪、好きだよ。天パーでも絡んでなくてさらさらで、でもふわふわしてる。銀の色も…綺麗だ」
「ひじ、かた…?」

誰かを見て、綺麗だとか、好きだとか言ったのは初めてだった。
でも、そう。初めて見たときからそれは思っていた。だから、すんなりと言葉は喉を通り、発せられ、坂田の耳に届いた。

「ありがとう。俺、そんなの言われたの初めてだ」

そう言って、笑う坂田が、本当に綺麗だった。










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