あの、暑い夏。俺は、あいつと出会ったんだ―――
俺は実家の家計状況から、大学へとは進まず就職を選んだ。親はどうしても大学へ行ってもらいたかったようだが、これ以上借金は増やせないと親を説得した。
その親も、すべての借金を返済し終わった年に亡くなってしまった。
結構上まで行ったんだけれど、ちょっとそれがあまりにもショックで。親を頼りにしてたわけじゃないけど、ただ親のためにやってきた仕事だったから…親が居ないなら意味無いと辞めてしまった。
そして、今は高校生時代の友人、近藤さんと総悟が立てた会社に就職させてもらった。
旧友とともに働くのはとてもいいことだ。ノルマばっかりの生活が嘘のようで、これはこれで充実した毎日を過ごしていた。
立てた会社とは、飲料会社だった。
そして、俺の仕事は主に受注と、配達、補充だった。総悟は免許は持ってないし、近藤さんは運転すれば必ず事故(といっても、電柱にこするとか。それでもどうかと思うが)を起こすので、これで落ち着いた。
そして最近になって、大江戸高校の購買部に新しい自販機を入れる話が持ち上がり、学校長がこの会社の自販機を3つも入れてくれる話になった。
俺は配達補充も兼ねているので、その大江戸高校へと足を運ぶこととなった。
「土方もあの会社にいたのか!」
「ええ、まあ」
「でも、就職先は保険会社じゃなかったか・」
「…先日、両親が亡くなってしまって…それで色々と…」
「そうか…いらない事まで聞いてしまったな…」
「いいえ、大丈夫です」
久々に会った学校長――松平学校長は、相変わらずサングラスをかけてどこぞのやくざのような格好だった。
一通り、説明等を聞いていると、自販機を入れ終わったと違う業者からの連絡が入った。
「では、俺はこれから仕事に…」
「おう!また、近藤や沖田も混ぜて酒でも飲もうや!」
「ええ」
会釈をして、学校長室から出る。
都立であるこの学校は校風がかなり自由である。まあ、学校長を見れば一目瞭然だが。
でも、問題を起こす等の騒ぎは一切ない。疑われる事は日常茶飯事だったが。
それもどうやら俺達の時代だけだったみたいだ。今、廊下ですれ違う学生達は、スカート丈が短すぎだったり、Yシャツが出てたりしているけれど、問題を起こすような感じではない。
俺達の時代には、高杉をはじめとする良く分からないグループが2、3あったからな。
そう考えると、この学校もいくらか落ち着いたのか。
そんなことを考えているうちに、校庭に面している購買部についた。
今日はどうやら、試験前のようで、校庭で活動している部活はなかった。購買部のばあさんも居なかった。
「…なつかしいな」
ぽつり、と。
あの歳月を思い出して、ふと言葉に出た。
騒がしくて、うざったくて、でも…楽しかった高校3年間。それから親のために、と一心不乱に働いて。今は旧友と真剣に、でも楽しく仕事をしている。
「さて、と」
俺は、トラックから飲料の入ったダンボールを台車に下ろし、初補充の仕事に取り掛かった。
自販機3つ、しかも新品だからかなりの量があったので、結構な時間がかかってしまったが、何とか時間内に終えることが出来た。これから2ヶ所、回らなければならない。
3つそれぞれしっかり動くかの確認として、150円を入れて、一番手ごろな水を買う。
「よし…」
ちゃんとおつりも返ってきたし、しっかり機能してるようだ。
そして、帰ろうとしたときだった。
「っあー、もう!松平のとっつぁんは、しつこいんだよ!!」
という、叫び声とともに、白髪頭の白衣を着たやつが購買部に入ってきた。
年齢を想像するに、先生だろう。なぜ白髪なのだ…なぜ、白衣?(うちの学校に白衣を着けて授業する先生は一人もいなかった)
疑問が幾つか駆け巡ったが、それでも、その姿を見て。俺は目を離せなくなったんだ。
そう、これが…俺と、坂田銀時との、出会いだった。
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