あれから、サイケは一切俺の所に来ていない。
あんなに頻繁に来ていたから、尚更不安で。でも、俺はサイケの事を何一つ知らない。どこに住んでるとか、普段何をしているのかとか。
サイケがただここに来る事を、ただ待つことしか出来ない俺に苛立つ。
"コンコン"
扉を叩く音がして、サイケかと思って急いで出てみたが、違った。黒い服の男だった。
「津軽くん、はいこれ」
「?」
「サイケからの、手紙だよ」
「な、に…」
男はそれだけ言うと去って行った。
どうして俺の名前を知ってる、とか、俺の住所は何処から聞いたんだとか…色々聞きたい事はあったけれど。
サイケの名前に、俺は止まってしまった。
どうして、手紙なんだ。
その疑問が、俺の脳内を駆け巡った。手紙を開けたいのに、その焦燥に駆られて手が言うことを利かない。
漸く開けた手紙には、
『津軽、元気?
津軽がこの手紙を読んでる頃には俺はこの世界に居ないと思うんだ。
俺ね、ロボットだったんだ。
理由はわかんないけど、この世界にパソコンから出てきたみたい。
それで俺は、みんなの為に歌うロボットになるから…津軽の傍にはいられないんだ。
本当はね、ずっと津軽の傍にいて、津軽の為だけに歌っていたかったよ
でも、ダメみたい
だからおれはパソコンにもどるね
つがる ずっとすきだよ
つがる おれつがるわすれないから
ずっとずっとだいすきだよ つがる』
そう書いてあった。
途中からは漢字が使われてなくて、かわりに涙の跡がいくつもあった。
「…、くそっ」
あの別れ際、俺はサイケに何て言った
『ああ、またなサイケ』
『また、明日があるだろう?』
なんて、無責任な。
あの時、サイケの暗い表情に気付いて引き留めていればこんな事にはならなかったのだろうか。
自責の念が溢れ出てくる。
過去を悔いたところでどうにもならないのに。
サイケは、戻って来ないのに
久々に街に行くと。
大型ディスプレイには、サイケが映っていた。
『ボーカロイド サイケデリック』
そう書かれて。
あの短い期間だけ、サイケは俺の隣で確かに"生きて"いた。
あの体温は、ロボットではなかった。
「愛してるよ、サイケ」
俺の言葉は街の雑踏に消えた
end.