「津軽、さっきのお礼…何がいい?」
高価なものは買えないけど…と付け足しておく。でも、人が押しかけても文句を言わない津軽は、そんな現金な人じゃないと思うけど、一応。
「サイケが考えたお礼なら…何でもいい」
ボソッと呟く津軽に、また胸が暖かくなる。どうしてだろう。こんなに津軽がくれる暖かさが嬉しいのは。
「じゃあ…俺の歌、聞かせるね!」
「ああ」
縁側に座ってる津軽の前に行く。
こうやって、誰かに歌っていたのだろうか。わからないけれど。
耳に聞こえる自分の歌声は、随分と懐かしくて。歌うのは…久々なのかな。なんて思ったりして…
頭に残ってるメロディーを歌う。
今は、津軽に、感謝の気持ちをたぁくさん込めて。
「…すごく、綺麗だった」
「本当?!なら良かった」
歌が終わると、津軽は静かに拍手をくれた。
誰かの為に歌い、その誰かが喜んでくれる。こんな幸せ、滅多にない。
「ねぇ…津軽」
「何だ?」
「明日も…来て、いいかな?」
「ああ…サイケなら、構わない」
「やったあ!じゃあ、また明日ね!」
少し都会から離れた津軽の家を後にする。
今なら、あの家に帰っても怖くない。津軽を思い出せば、あの歌を思い出せば…俺は一人じゃない。
やっぱり胸は暖かくて、津軽でいっぱいだった。
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