気付いたら、ここにいた。
ただ真っ白い部屋にパソコンが1台。おれは今まで何をしていたのか。全く思い出せない。
わかるのは、自分の名前が「サイケ」だと言う事と、歌がとにかく好きだという事と、ここがマンションの1室という事だけ。
あとはよく思い出せない。思い出そうとすると頭がずきずきと痛んだ。
周りを見渡すと、真っ白い壁には不釣り合いな、黒い扉があった。
それを開けると、人工的な明るさから一辺した。窓から暖かい日差し。もう夕方だろう。
そう感じた瞬間、突如頭が警報を鳴らした。ここから逃げろ、と。
それからはただただ走った。分からない。自分が何者で、どうして真っ白いコートを着て、ピンクがアクセントのヘッドフォンをしてるのか、分からない。
もしかしたら、音を作っていたのかもしれない。
走り続けていたら、誰かとぶつかってしまった。
「おい…痛ェんだけど…」
「あーあこりゃ折れてるわ!慰謝料だなぁ?ざっと見ても10万?」
「え…っ、あ…」
何が起きてるんだろう。
目の前の人達が怖い、という事だけは認識出来る。でもどうしたらいいか分からない。
「あー何?金持ってねぇの?」
「は!なら…顔貸せよ」
茶髪の男が、腕を振りかざす。
殴られると思って、目をつぶる。だけど痛みが襲って来る事はなく。ただ何かと何かがぶつかる音がした。
「…大丈夫かよ」
「へ…あ、はい…ありがとう…」
目の前には、和服なのに金髪という奇抜な格好をした人。でも、凄く似合っていて、素敵だった。
「おれ、サイケ。貴方は?」
「…津軽だ」
「津軽ありがとう!」
笑顔で言うと、津軽はちょっとはにかんだ。
立てるか?と聞かれたけれど、さっきので腰を抜かしたみたいで、津軽がおんぶしてくれる事になった。
「津軽、重くない?」
「ああ。寧ろ…軽い」
「そうかなあ……ねぇ津軽」
「何だ?」
今は自分の家であろうあの白い部屋には戻りたくなくて、無理を承知で津軽の家に行きたいと言った。
一瞬、津軽が驚いたみたいだけど、優しい声でいいぞ、と言ってくれた。
それだけで胸が暖かくなって、もっと津軽にしがみついた。
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