あれから俺は情報屋をやめて、新宿のとあるバーで働くようになった。

質素でかつ大人の雰囲気を醸し出す、会員制のバーには、裏情報がたまに流れて来る。
情報屋は辞めたが、今、あの街がどうなってるかは…気になるのだ。





「お兄さんカクテルちょうだい?」
「はい」


笑顔で応え、カクテルを作る。そしてその間に、カクテルを頼んだ男の取引相手が来た。


「こんばんは」
「ああ。お前の欲しがってた情報だが…平和島静雄は、―――」





目の前が、ぐらり、と歪む





世界はぐるぐる回り、自分がどう立っているのかも解らない程。
いや、立っていないのかもしれない。微かな浮遊感。


「っは…、が…っげほ、っ」
「ど、どうしたの、お兄さん」

カクテルを頼んだ男が、急に倒れ、咳込む俺を心配する。
段々と意識は薄れていく…







*







「ん…っ、」

目が覚めると、病院だった。独特の、消毒液の臭いに、目に痛いまでの白さ。


「貴方、本当に具合悪いから…何ヶ月か入院した方がいいそうよ」
「な、みえ…さん?」
「でも貴方なら要らないと言うと思ってもう手続きは済ませたわ」
「は…」
「正直、今の貴方は邪魔なだけだわ。じゃあゆっくり休みなさいよ」



波江さんはそう言うと、踵を帰した。波江さんがいた場所の横に、着替えだろう荷物がどっさり置いてあった。


「…何だかんだ言って、弟以外にも優しいんだよなあ、波江さん」


女のように、少しは可能性のある人を好きになればよかったのだろうか。
喧嘩相手じゃなく、友達と呼べる間柄ならこんなに悩まなかったのかな。


胸が苦しくて、辛くて、重かった。




あんなにショックな事があって、こんなに苦しんでるのに…まだ、大好きだなんて。人間の…俺のこういう所だけは、嫌いだ。
諦められないこの気持ち。玉砕したのに…気持ちは流れる所か、俺の胸に巣くって…

俺は、どうしたらいいんだろう。何がしたいんだろう。





「つらい…な」




想いが伝わらない事も。
それを伝えられない事も。




俺の左腕には冷たく、無機質な点滴が刺さっていた






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