好きだと言う事は勿論、好きでいる事さえ出来ない。







こんな気持ちを簡単に捨てられれば良かった。簡単にドタチンや新羅にほだされた自分を呪ってやりたい。

大好きなシズちゃん。

だけどその想いは邪魔でしかなくて。シズちゃんと俺の間には、殺伐とした雰囲気、気持ちしかない。
つまりはどう足掻こうと、無意味で。



結局、辛い想いを倍増させただけ。








「ねぇ。」

ソファーで寝ていると、波江さんが話し掛けてきた。
意識が水の底からゆっくりと浮上する



「池袋、行かないの?カレンダーに」
「げほっ…は、がっ…ぁ、ごほごほっ…、かは、っ」
「ちょ、大丈夫?」





池袋、

その単語に過激に反応する。気持ち悪い。喉がカラカラで。無駄に重く、乾いた咳しか出てこない。ろくに喋れない程に。


「か…っは、…は…」


波江さんが背中をさすってくれたお陰で、さっきよりは随分と楽になった。


「…今の貴方にあの名前は禁句みたいね。気をつけるわ」
「…ありがと、波江さん」
「…気分転換に、外でも歩いて来たらどう?ちょっとは楽になるでしょ」
「そうするよ…」



いつものファー付きコートを羽織って出掛ける事にする。
波江さんは、もしもの為に、と喘息用の呼吸器をくれた。



自分であの地名を出すのも嫌だ。胸が苦しくなって、またあの咳が出そうになる。
息が出来なくて、汗が滲み出る。あの恐ろしいまでの、苦痛。終わりがないように思えるから、尚更。
だけど、これじゃあ、情報屋としての仕事が出来ない。

だから、なるべく無心になって、そこへと行くことにした。



数十分後、この安易な考えが見誤りだと気付いた






「けほっ…」

軽い咳から始まり、

「げほっ…ごほっ…ごほごほっ…、」


次第に重くなる


「はっ…は…げほ、…ごほっ…」



ポケットから呼吸器を出して、吸ったり吐いたりを繰り返す。
少しして、徐々に落ち着いてきた。



これじゃあ、情報屋をやめなきゃならない。
池袋以外を舞台にする気はないし、それに詰まらないから。






ああシズちゃん、会いたいよ








彼の名前を呼んだら咳が酷くなった




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