「早く連れて行け」
「ヒューバート!待ってくれ、ヒューバート!!」
「…っ!!」
真夜中、目が覚めた。
夢が…最悪だったからだ。
兄さんをここから追い出してから、よく見るようになった。あの日の兄さんの顔を。声を思い出す。
兄さんは、領主になれた。僕は、捨てられた。この、ラント家から。領主になれたはずの兄さんは、領主にはならずに自分の好きなことをしていた。僕は…出来なかったのに。
領主なんてどうでもいい。
ただ、僕は兄さんの傍にいられたら、それで。でも、それはかなわなかった。
なのに、兄さんは…。憎かった。僕は、出来ない好きな事を、兄さんが出来るから。それだけだけれど、とても憎らしかった。
「…く、…っ」
何で、涙なんか、出てくるんだ。
ベッドの横にあるサイドテーブルに、お守りがあった。
兄さんが、捨てられたあの日、くれたもの。
何度捨てようとしたか。
だけど、捨てられなかった。理由なんて…簡単だ。僕は、兄さんが好きだから。
憎い。けれど、好きなんだ。僕のしたかったけど、出来なかった好きなこと。それは兄さんの傍にいること。
結局は、兄さんがすきなんだ、ぼくは。
なのに、ラントから追い出した。
後悔をしてるようで、していない。よく、分からなくなってきた。
あの時の判断は正しいのか、そうじゃないのか。
「兄さん…」
手を伸ばして
(僕を助けてよ、兄さん)
end.