今日は何だか大トロを食べたくて、露四亜寿司に行った。
暖簾をくぐり、扉を開けて目に飛び込んできた金色。どくり、心臓が高鳴る。


「イザーヤ!寿司、美味イヨ、大トロ、食ウ?」
「臨也…?」

サイモンは俺を見た途端、そんな大声で叫ぶから。折角シズちゃんにバレないように買って帰ろうと思ったのに。

「や、やあシズちゃん」
「…ここ、座れよ」
「は?」

幻聴かと思って聞き直したが、シズちゃんはそれ以上は話そうとしない。それどころかまたカウンターに向き直りお酒を飲みはじめた。

「シズちゃんからのお誘いだし…、隣、座ろうかな…」
「おー」

随分と酔っ払ってるみたいで。かなり上機嫌だ。俺がこんな至近距離にいるのに、怒らないなんて。
でもそれが嬉しいなんて思ってるあたり、俺は相当やばいかも。


「あ、サイモン、大トロ20個、持ち帰りで!」
「あ?手前…食ってかねぇのかよ。酒、やるからよ」
「え…いや、だって…ほら!シズちゃんは嫌だろ俺が隣に座ってるの。だから喧嘩にならないうちに家に帰ることにするよ。」


必死に言い訳を考えてポロポロ口から零していく。
こんなに近くでシズちゃんと一緒にいて、しかも酒なんか飲んでみろ。俺は自分で何を仕出かすか分かったもんじゃない。


「あ?ならサイモン、ここに残ってる俺の寿司も包んでくれよ」
「は?何してんの、シズちゃん」
「この後、暇なんだろ?」
「え…ま、まあ…そうだけどさ」
「じゃあ俺の家で飲みなおそうぜ」
「へ!?いや!いいよ!」

ななな何を言ってるんだシズちゃんは!
いくら今日は酒を飲んでるからってこれはおかしい!本当、酔い過ぎだよ…

結局、どっちも引かず、店も閉めるから、とりあえず金払って出てくれと言われた。自分の支払い分を数えていると、まだシズちゃんの会計が終わらない。


「何してんのシズちゃん。お金出しなよ」
そう言っても動かない。

「シズちゃん?お金は?」
「……忘れた」
「はあ?」

ばっかじゃないのと悪態をついて、仕方なくシズちゃんの分も払ってあげる。
するとシズちゃんは最高の笑顔で、ありがとうって言ったんだ。
…反則だよ、その笑顔。


「あ!」
「どうした」
「シズちゃんと俺の分払ったら、電車賃無くなっちゃった。どうしてくれんのさ」
「…じゃあ尚更、俺の家で飲みなおそう」


今のシズちゃんには、シズちゃんの家で、飲みなおすしか頭に無いみたい。
別に今からコンビニ行って、ATMでお金をおろす事も出来るんだけど…

こんなにシズちゃんが俺に、家に来いなんて言う事は珍しい。つか初めてだ。
相当酔ってるみたいだから、シズちゃんが寝て、目が覚める前に帰ろう。それなら、俺も嬉しいし、シズちゃんが酔って俺を連れ込んだなんて事実に傷付かないだろう。あ…自分で思いながら、傷付く。馬鹿みたいだ。


「ほら。さっさとしろ」
「うん…」


本当は大好きなシズちゃん。
本気で殺さないのはそんな理由から。いや殺せないと言った方がまだ語弊は少ない。
シズちゃんに手首を持たれて、歩き始める。ああもう!どうしてこんなに様になるんだよ腹立つなぁ……俺の気持ちに気付け、ばーか…なんて、言えるわけない。








シズちゃんの家に入り、ソファーに座る。安っぽくて、笑ってしまう。

「何笑ってんだよ手前」
「ひゃ!」

突然、首に冷たいものが当てられて、それがビールだという事に気付く。

「そういえば、シズちゃん」
「あー?」
「どうして財布持ってなかったの?しかも29万なんて金額…どうしたらそうなるのさ…流石の俺もびっくりしたよ」
「…ずるずる酒ばっか頼んだからな。後、財布はアレだ、手前が来るような気がしてよ」


え…マジでシズちゃんどうした…これは暗に、俺に会える気がしたのに会えないからお酒飲んで待ってた、って事、言ってる?うわ、なにこれ…相手は酔っ払いと分かっていながら胸が煩くなる自分がいる。



「臨也…」
「なあに?」

ちゅ、

「?!」
「ん…臨也、臨也…」

ちゅ、ちゅ



俺が黙っていたら、突然シズちゃんが俺の方を向いて、名前を呼んだ。ちょっと右を向くと、キスされた。おでこに。え、なにこれなんなのちょっと待って。
慌てていると更にキスされる。目元に、頬に、首に…

「ちょっ、しっ、シズちゃん?」
「臨也…」

ちゅ

あああもうさっきからリップ音ばっかり。煩い。シズちゃんが何をしたいかさっぱり分からなくてイライラする。

「いざや…いざ、や…っ」
「っ、」

手を持ち、キスをしたあと、今度は指にキスをして。付け根から指先まで…1本ずつキスをするシズちゃん。
しかもどこか悲しげで。
そんな切ない声で呼ばないでよ…誰と、こういう事になるのを望んでるの?


シズちゃんは体重をこちらに寄越すから、ソファーに押し倒される形になった。


「シズちゃ…?」
「すー…」
「…」


あれ程しつこかったシズちゃんは、寝てしまった。

あれ…これじゃ帰れないと思う程にかなりきつく抱擁されている。
ああちくしょう…だから嫌いだ、シズちゃんなんか。



シズちゃんのキスが俺と望んだものでなくても、俺の名前を呼びながらしてくれた事に…嬉しさは隠せない。




「ちくしょう…大好きだ、馬鹿シズ」






流れた涙は歓喜からか絶望からか










身代わりキス
  (君は誰でも良かったんだ)








end.
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