現在お付き合いしている翔一との結婚は考えたこともないし、したいとも思わない。だけど結婚という言葉を耳にする度、年齢的にはもうそろそろしないといけないという気持ちはある。もし翔一にプロポーズをされたとしたら、結婚という言葉を手に入れる為のエゴに等しいかもしれない。なんて思っていたのは、二年前の丁度今頃だった。私のポジションはランクアップされず、未だ翔一の“彼女”のままだった。周りの幸せな家庭が、痛いくらいに目に染みる。起きて、仕事をして、翔一と夜を過ごして、また起きて。私の毎日のアルゴリズムは、二年前と変わらないままだった。悲しいことに翔一との未来が見えないのが、現在だった。ねえ、翔一は私との結婚を考えたことがあるのか。私たちの関係に名前を付けるとするなら、恋人では遠い。腐れ縁が一番相応しいだろう。今の位置は心地いい筈なのに、何故か気持ち悪く感じた。どないしたん。細い目は昔から変わらず、煙草臭い服が良く似合う。翔一の悪いところは直ぐに見つかるのに、良いところなんて見つかりやしない。私たちもう三十過ぎじゃん。少しずつ、少しずつ翔一の本音を聞いてみようと前へ踏み出してみるも、内心は少し恐れていた。翔一に結婚する気がなかったら、この先どうすればいいのかわからない。それでも翔一と付き合うなんてことは、私には出来なかった。せやなあ。服を着替えている最中で、翔一のアイデンティティの一つでもある眼鏡は、机の上に置かれていた。よいしょ、と上半身裸で私の前のソファーに座ると、煙草に火を点けた。ワシは結婚したいで。急に何を言い出すかと思えば、それは私が気にしていることだった。ニヤニヤと私の反応を楽しんでいるのか、吐いた息が煙たくって咳き込んでしまった。それすら楽しんでいる翔一に、少しの苛立ちを覚えたが、次の言葉で気持ちが上書きされたようだった。結婚しよか。…ずって待ってた。それは、結婚という言葉を得る為ではない。今でも変わらずに、翔一が好きだから。今度は照れ臭そうに笑う翔一に、本当の愛を見れるような気がした。

アイオーン様提出
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