「あら、お気に召しませんでしたか?」
クスクスと小さく声を立てて、彼女が笑った…ような気がした。
無口な彼女が饒舌になるのは、大抵僕をからかっているときだ。
「この本、僕の趣味には合わないと言ったはずだ。それなのにどうしてまだ置いている?」
処分してくれ、と彼女に頼んだのはまだ記憶に新しい一週間前のことだ。
それなのに彼女は、処分するどころか大切そうに本棚にしまっている。
「趣味に合わない…ですか。最後までお読みになられたのです?」
彼女は笑うのをやめると、その長い足を組み替えてこちらに目をやる。
いつも視線のやり場に困るのだが、今日はそんなことも気に止まらないほど僕は憤っていた。
「趣味が合わない本を最後まで読む義務などないだろう。」
「それもそうでした、ミスター」
さも気にしていなさそうな風に彼女は言う。
そして、その本をいたずらにぱらぱらと捲っては、目を細めてこちらを見る。