Felice
――その青は、幸福の色。




「青い鳥は幸せの象徴」



彼女はうっとりとした目でそう言った。

心を奪われる鮮やかな、それでいて優しげなブルーの羽。

しなやかに伸びる、天使の羽のような尻尾。
それらは時折、陽に透けてきらきら光る。


ここに幸せがある。

その言葉に疑いもしないほど、綺麗な綺麗な青い羽。

見る者全てが心を奪われる、美しい色。


森で怪我をしていた美しいその鳥に、私はフェリーチェと名前を付けた。



どこかの国で“幸せ”という意味なのよ。


そう言って、優しく微笑んで教えてくれた、今は亡き母の横顔を思い出す。


目の前の彼女は、そんな私を横目で一瞥してさっと表情を戻した。
なにか気に入らなかったのだろう。少し意地悪そうな顔をした。


「じゃあ、赤い髪はなんだと思う?」


いつも二言目には、彼女はそう尋ねる。
その問いの答えは、これまで嫌というほど何度も聞かされた。
私が纏う、幸運の青い鳥の羽には似ても似つかぬ桃色の髪の毛。母とも彼女とも、この村の誰とも違う色の、赤い髪。

彼女は口元を歪め、私の反応を伺うかのようにそっと宣言する。


「赤い月と同じ、血の赤。」


初めにそれを聞いた時は、悲しくて悲しくてやりきれない気持ちになったものだ。

その日の夜は、泣き腫らして眠れなかった。


けれど、私はもう十五になる。


取捨選択のできる年頃だ。
だから、自分が信じるものは自分で決める。


「シスターがね、言ってくださったの。
血は命の源。だからこの色は、命の色だって」

そう返すと、彼女は心底不満そうな顔をして「あっそう。」と吐きすてた。


「きっと、あの月が赤くなるのもそうだと思う。だって、私の誕生日も月が赤くなってたって――」


言いながら、胸に飾ったペンダントをそっと指で包む。

微かに、呼応した気がした。






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