「月が赤くなる理由を知っているかい?」


面白そうに、試すように、でも心底つまらなそうな顔であいつはそう言った。

首を横に振ると

「なぜなのか知りたくはないかい?」

無機質に、嘲笑うような素振りも見せずそう続け、左手にはめた指輪をキラキラと反射させて見せた。

それに頷けば“引っ掛かった”ようで癪だったし、かと言って否定するのも気に食わなかったので

「知ったら何か変わるのか?」

そう答えたのを覚えている。


月が赤くなる理由なんかより、この――こいつから――逃れる術の方が知りたかったし、

そもそもこいつが誰なのかも知らなかった。


あいつはふふ、と笑って長い髪を小さく揺らした。

「生意気な子どもは好きよ、坊や」

あいつは真っ赤な紅をさした唇に指を当てる。
真っ赤な唇と真っ赤な爪、真っ赤な服。悪趣味だ。


あいつがいつからここにいるのか、どこから来たのか、どうしてここにいるのか。


俺の心に巣食っている、名もなき悪意の塊をただ睨みつけることしかできなかった。



*


月の模様が人の顔に見える。


そんなことを思うたび、反吐が出て仕方ない


その人の顔が、だんだんと歪んで
あいつの顔になっていく

そして、あいつの顔は


ひどく醜く歪んだ、自分の顔であると
気付かされる。

そのことを、呪わずにはいられないんだ――




逃れられない定め。

生まれる前から血で汚れていたこの手を
温めてほしいとは、思わない。




頼むから、見ないでくれ
気付かないでいてくれ

綺麗とされている人にならなおさら、
見つかりたくはない。


自分とは違うのだと、
自分は人と違うのだと、


嫌でも思い知らされてしまうから――。





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