その昔。

江戸時代には、生まれつき人間離れした特異な能力を持つ者たちがいた。


常人では考えられないような、多種多様の不思議な業を天から授かった彼らは、身体の一部にその証として「印」を持っている事から

「印科(インカ)」と呼ばれ区別されていた。


「印」は今で言う刺青のそれと酷似しており、それぞれ入っている場所が違う。
またその刻印の模様も様々なため、一目では見分けがつきにくかった。


そのため印科は、国の定めにより耳朶に石を着けると決まっていた。

石は身分によって一般庶民は黒、武士は金と色分けされており、城にはその中でも金の石を付けた武士たちだけが集められた課がある。


それが、鰐鮫課――もとい、特殊奉行課だった。



「そう言うとなんだかすっげーおっかないと思うけど、実際は思ってたより地味だよな」

「仕事ったって他の部署と大差ないもんな。
町に住んでる印科の管理、巡回、あと厄介事の後始末ぐらいか」


桜並木と江戸の町を見下ろすように、威風堂々と構える城の中庭。

裃を纏った、ぱっと身は普通の若い武士たちは、休憩を取りながら仕事中に張っていた気を緩め、そうぼやいていた。

その耳には「印科」を意味する金色の石が輝いている。


「むしろ一番厄介なのは仕事っていうより課長だよな」

「言えてるな。
あの人と一緒にいる方がよっぽど体力消耗するし――」

ははは、と二人が冗談めかして笑った時、


「海、川市。
いつまで呑気に休憩しているつもりだ。鐘が聞こえなかったのか?」


明らかに二人のものではない、鋭く尖った声が空気を裂いた。

二人の顔から血の気が消え、その場には一瞬にして緊張感が張り詰める。

振り返ると、眼帯をした若い武士が冷たい目つきでこちらを見ていた。

「き……桐生課長!!」

「すいません!すぐ戻ります!!」

海と川市と呼ばれた武士は、風のように大慌てでその場を立ち去った。



「おっかねえなぁ…噂をすれば何とやら……」

「本当だよ…。
もうここに来て1年ぐらいになるけど、あの人は未だに何考えてんだかわかんないし、目つき悪いし」

海は青ざめた顔でそう言うと、


「これだからうちの課は、よそから“鰐鮫課”なんて呼ばれるんじゃねーの」

さっきの眼帯をした男の顔を思い浮かべながら呟いた。

 



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