少し、疲れただろう。
休んで行きなよ
うららかな初夏の陽気に、屋根上の猫たちは体を丸めて目を細めている。
日向ぼっこにはもってこいの長閑な店前で、のんびりした雰囲気に似つかわしくない、慌てた様子の坊主が飛び出した。
「先輩ー!」
彼の名は、波路奏介。
まだ若き武士の見習い兼、お茶屋さくらの熟練店員である。
彼の声に驚いた猫たちは、折角の昼寝を邪魔され不満そうに逃げて行ったが、奏介はそんなことにも気づかずきょろきょろと辺りを見回した。
「いない……っ!!」
奏介はわなわなと肩を震わせた。
普段温厚で従順な彼は、滅多に怒ることはない。
騒ぐことがあるとすれば、理由は十中八九決まっている。
「また食い逃げしたっスね、先輩!
今日という今日は逃さないっスよ」