One night at casino


目が眩むようなネオン。

ざわめき始めた人の波とただならぬ気配に、
そいつは嬉しそうに唇を上げた。


ここはカジノ。
金をもて余した富豪どもが、醜い面を歪めながら豪遊するための場所。


――何とも居心地が悪い。

顔をしかめるアリアとは正反対に、
そいつはこの場に早くも馴染んでいる。

というより、そいつの根底は奴等に近いものがあるのだろう。
現にこいつも相当金を持て余していたじゃないか。



『潜入のためだから』

そうにっこり笑ったかと思うと、
必要以上のドレスや靴、装飾品を片っ端から買い上げたのは、こいつだ。


頭の先から足の先まで、買い揃えられた服や靴に身を包んだアリアを
『うん、かわいい、かわいい』と男は褒めたが、リップサービスというより皮肉にしか聞こえない。


女なんて止めたと言わんばかり(というか実際に言ったのだが)のショートヘアも、生傷だらけの脚も、
上品ながら華やいだドレスには全くそぐわないと言うのに、男は


『服はあくまで君の魅力を引き立てるためのもの。
君自身が魅力的だからよく似合っているんだ』
と褒めちぎった。

口が腐るようなキザなセリフは、ヤツの得意分野だ。さっさと腐ってしまえ。



そんな事を回想している間に、男はグングン列の前へと踏み出して行く。目星がついたらしい。
それを察して後を追うと、慣れないヒールで足下がぐらついた。

「…っ!」

まずい、ここで転んで注目を浴びてしまえば、
スパイだとばれてしまうおそれがある。

持ち前の反射神経を駆使してアリアが踏みとどまるのと、ロイがその腕を掴むのとはほぼ同時だった。


「危なっかしいお嬢様だ」
顔を上げると、目が合ったロイはふわりと微笑み、
そのままアリアを抱き寄せた。

「…っ?!何する離せ…」
いい終える前に手で口を覆われた。

「落ち着いてよ。君は箱入りのお嬢様。
僕はその兄だ。設定の通りに振る舞ってくれないと、後でお仕置きだよ?」

いいの?と確かめる目は、悪戯半分、本気半分。
それを見て状況を思い出したアリアは、頷くしかなかった。

「わかったから、離せ…」
「……リリー?お兄様には何て口を聞くのかな?」
「…離して下さい」

逆らっては何をされるかたまったものではない。
悔しかったが大人しく従うしか道はなかった。


「本当は、イタズラしながら君で遊んでたいところだけど…こういうプレイも悪くないし」
ふう、とため息混じりに聞こえ、鳥肌がたったアリアは触れていた手をこっぴどく振り払った。

しかし男はものともせず、またターゲットを狙う目に戻っていた。








 




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