夕暮
雨が止んだ。
それを確認した後、水滴の付いた雨傘を軽く振ってきれいに閉じる。
差していても空が透けて見えるのが好きだからと、傘はいつもビニール傘を持つことにしていた。
雨の日は皆、傘を差す。
傘を差したまま下を向いて歩いては、水たまりに映った曇り空にため息を浮かべる。
「晴れていない空は見る価値もない」と言わんばかりに下を見て、足早に駆け抜けて行く大人にだけはなりたくないと思っていた。
気付けばいつからか、晴れた空の眩しさに目を背けるようになった自分がいた。
青い光が点滅を始めると、信号はあっと言う間に赤に変わってしまった。
「止まれ」の合図に、思わず足踏みをする。
…青よりも赤が好きだな、とそれを見ながらふと思う。
なぜだか晴れた真っ青の空よりも、焼けた赤い空を見ているときの方が妙に気持ちが落ち着く気がした。
今の空は、絵の具で塗ったような灰色をしている。
雲に覆われた向こう側がどんな色をしているのかはわからない。
横断歩道で立ち止まる人たちの表情によく似ている、と思った。
どんよりと曇った、疲れた顔。
今の自分も、同じ顔をしていた。
昔は、青が好きだった。
冴え渡る青空に自分の希望を馳せるように、目を細めながらもいつも空を見上げていた。
いつからこんなに、太陽を明るすぎると感じるようになったのだろう。
信号が青に変わる。
しつこく点滅を繰り返しながら赤へ変わる時とは反対に、あっさり手の平を返したかのようなgoサイン。
それに倣って進める足は重い。
やがて夕方のサイレンと、烏の鳴く声がした。