…ふざけんなよ。
ホント、最悪の誕生日だ。
心の中で悪態つきたい気分と、最初から約束すらしていなかったのに相手だけを責めるのはおかしいと俯く自分が同居していた。
酒を求めて入った店内はタイミングが悪く混雑していて、レジ前には列が出来ている。
こういうときに限って嫌なことは重なるものだ。
三回もすれ違う人と肩をぶつけ、三人目には舌打ちされ睨みつけられた。
しかしグッとこらえ、レジを抜けて、両手を酒で塞がれながらやっと店から出ると、途端にザーザーと雨が降り始める始末。
…今朝の天気予報、思いっ切りハズレじゃないか。
あれだけお天気お姉さんに降らない降らないと言われては、もちろん傘なんか持って来ているはずもない。
つい数十分前までいた職場を出るとき、置き傘を持って帰ればよかったと後悔した。
いや、そもそも車で来ればこんなことで悩まずに済んだ。
なんでか今朝は「誕生日だから」と浮かれて、歩いて出社することを選んでしまった。
こんな最悪の結果になるとも知らずに。
イライラを募らせるうち、不意に太股の震えに気が付いた。
両手いっぱいの酒を必死で片手にまとめて、ジーンズの右ポケットで動くそれを手に取った。
「…はい」
誰からの着信か確認もせずに、いつもより低めの声で電話に出ると、受話器の向こうから予想だにしなかった大音量が響いてきた。
『アンタ今どこにいんの!?』