「ふうん…」
少年の視線の先を追うと、
夕日に照らされたオレンジ色の街並みは、空に向かって大きくそびえ立っているようにも見える。
少年の瞳はその景色を刻み込むわけでもなく、
ただ水溜まりみたいに目の前の光景を映しているだけのように思った。
沈黙を破るカラスの鳴き声の後に、たまたま公園のそばを
少年と同じ年頃の子どもたちが駆け抜けて行く。
楽しそうな笑い声につられて少年はそちらを見た後、また視線をオレンジの街並みへと戻した。
「一緒に何かして遊ばない?」
私の口からは自然とそんな言葉が出た。
少年は顔を上げて初めて私の目をはっきりと見る。
ただ目に入ったものを映すだけではなく、初めて少年の心に映った気がした。
私は少年と近くに落ちていた小枝で砂に絵を描いて遊んだ。
少年は絵が得意らしく、熱心に描いているその姿は
まだあどけない子どもそのものだった。
始めは戸惑っていた少年も、遊んでいるうちにだんだん慣れてきたのか、ふとした瞬間に笑みを見せるようになっていた。
時間を忘れて遊んでいると、辺りは日が沈んであっという間に暗くなった。
「そろそろ帰ろうか。お家の人が心配するよ」
そう声を掛けると、さっきまで笑っていた少年の瞳にまた寂しさの色が戻ってくるのを感じた。
私も、初めに少年を遊びに誘った時と同じような気持ちになった。
だからとっさに
「また明日、遊ぼう」
と、右手の小指を立てて差し出した。
すると少年はまた嬉しそうに顔を上げて、照れくさそうに頷くと去り際に手を振った。
まだ短い制服の袖から覗いた
少年の細い腕を見つめながら、
「おうち、どこ?」
私は無意識にそう聞いていた。
「4丁目」
少年はそう言った。