『かずくんは? 彼女いないの?』
不意に投げかけられたその問いに、躊躇しつつも素直に『いないよ』と答えると
彼女はおかわりしたばかりの生ビールに口を付けながら
『そっかー。まだ叶ってないんだねー』
かずくんに彼女ができますようにってお願いしといてあげたのにー、と言って笑った。
…懐かしい同窓会がお開きになって、一時は同じ時間を共有した友達がそれぞれまた自分の生活へと戻っていく頃、
彼女はビールを飲みすぎてすっかり酔っ払っていた。
ベロベロになって半分夢心地の彼女のそばを、僕はなんとなく名残惜しくて離れられなかった。
ここで別れたら、また明日から彼女と会わない日々が始まるんだと思うと
卒業してから今日までの長い時間ともどかしさが過ぎって、
どうせ会えないなら思い切って最後に気持ちを伝えるべきかと迷っていた。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、彼女は突然
『あの時さー』
呂律の回らない声でそう言った。
『かずくんに彼女ができますようにーなんて、本当はお願いしてないんだー』
アハハー、と酔っ払い独特の笑い方をする彼女の話を、僕は馬鹿らしいぐらい大真面目に聞いていた。
だから彼女が
『本当はねー、私がかずくんの彼女になれたらいいなーって思ってたんだよー』
と言ったとき、聞き間違いではないかと思わず耳を疑った。
『ねーかずくんー』
呆気に取られている僕を彼女は真っ直ぐに見つめて、
『二人ともぜったい幸せになろうね』
…今までで一番優しい顔をして笑った。
『だから早く彼女を作りなさいーわかったー?』
次の瞬間にはおどけてそう背中を叩いたのが最後、
再び彼女の笑顔を見たのは
「結婚しました」と書かれたハガキの中だった。
彼女の結婚式には誘われた。
けれど、適当な嘘を吐いて断った。
まだ彼女が他の男と幸せそうにしているところを見て、笑顔で「おめでとう」と言える自信がなかった。