軽く背中を丸めたまま、交互に引かれた白と黒の線の上を歩く。
向こう岸まで着くと、再び信号は点滅を始めた。
何度も何度も、「進め」の青と「止まれ」の赤を繰り返す。
飛び立つ烏の群れを目で追いかけているうちに、空の色は少しずつ変わっていた。
交差する黒い電線に挟まれた、濁った色のグレー。
それにわずかな赤を混ぜた夕空は、いつもよりほんの少し、優しい。
雲のわずかな隙間を縫って、地上に赤い光を差し始めた空を見上げながら
所々光の反射しているアスファルトの上で、もう雨なんて降っていないのに傘を開いてみた。
まだ少し水滴が付いたままのビニール。
空に向かって咲いた花。
そこから透かして見た空は、雨に濡れた水滴で光っていつもよりきれいに見えた。
「夕暮れ」という字は、本当は「優紅」と書くのではないだろうか、と頭の中でこじつけてみる。
街を全て一色に染めて、どこまでも染み込んでくる朱色。
優しい赤。
だから私は、やっぱりその赤が好きなのだ、と思った。
かすかな秋の空気と雨上がりの匂いとを運ぶ生ぬるい風が、そっと首もとを撫でて通り過ぎる。
その脇を、色付き始めたばかりの紅を混ぜた落葉がはらりと舞い落ちていった。
いつかまた「ススメ」で歩き出せるように、と
空の「止まれ」に耳を澄ましたまま、長く伸びた影はじっとその場で立ち止まっていた。
![](//img.mobilerz.net/sozai/927_w.gif)
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