「無理だよ」
「やっぱりかー」
そんなことを言う川瀬にも、
その一言に振り回されている…自分の気持ちにも。
さっきまでの反省の色が消えた川瀬は、同じようにブランコから立ち上がって
「なら、帰ろうかな」
あっさりとそう言う。
「うん。じゃあね」
私も早くこの場を去りたくて背を向けた。
…私は川瀬が好きだ。
好きだけど……
「亜紀ちゃん」
名前を呼ばれて、すぐ振り向いてしまった。
私はいつも、川瀬には正面から向き合わないようにしていた。
横顔を見ている方が、目が合わないほうが、
自分が冷静でいられたから…
電灯の明かりでぼんやり見える、久しぶりに真正面から見た川瀬は
真っ直ぐに私の両目を捉えていた。
それは…力強く捕まえて離れられないぐらいに。
「ありがとうね。
亜紀ちゃんには本当に感謝してるから」
…だめだ。
射抜くように見つめられると
川瀬が本当に自分しか視界に入れるはずがないような幻覚にとらわれる。
川瀬が自分だけを見つめてくれて、一途に愛してくれるような幻。
でもそれは本当に……ただの幻。
他の女の子たちが何人もとらわれてきた、幻……