「ふっ…う、うぅ」
大阪に引っ越してきて1ヶ月。最初はゆっくり馴染めばいいと思っていたけど、1ヶ月経った今でも中々馴染めない私自身に嫌気がさして、めったに人の来ない校舎裏で一人泣いていた。ぽたぽたと地面に落ちる涙は止まることを知らず、ただ土に吸収されていく。
そんなとき、一つのテニスボールがころころ転がってきたと思ったら一人の少年がひょっこりと現れた。
「どうしたん?」
「えっ」
「なんで泣いてるん?」
少し長い真っ赤な髪に、ヒョウ柄のタンクトップ。丸くて大きい瞳が私を心配そうに捉えていた。明らかに年下だけど、奇抜な色の組み合わせに思わず引いてしまう。
「あ…ちょっと、目にゴミが入っただけだよ」
「……そうなん?なら、いいねんけど」
「…う、ん」
少年の瞳から目を逸らして俯く。早くこの場所からいなくなってほしい、そればかり考えて適当な嘘をついた。幸い、今日はどちらかというと風が強い方なので充分納得出来る嘘だ。少年は私をじいっと見つめてから、にかっと太陽のように笑った。
「なんやよう分からんけど、そんなに気にせんでもええんとちゃうん?」
「え?」
「ねえちゃんにワイの元気分けたるわ!」
なんで、という暇もなく少年の手のひらが私の両手を包む。私の手は冷たく、彼の手は暖かい。じんわりと、溶け合うような感覚が心地よい。
「…な?元気出てきたやろ?」
少年が私の顔を覗き込んできたのでこくんと頷いた。 あったかいと呟けば少年はまた笑顔になって先ほどよりも強い力で握られた。
空の太陽は遠いけれど、今私の目の前には小さな太陽がある。