あの後数分たってたから我を取り戻した怜くんが顔を真っ赤にして私を引き剥がした。
すすすすすみませんと謝られたので、冗談で怜くんって大胆なんだねと笑えば更に顔を赤くして私から距離をとった。


「冗談だよ怜くん」

「なッ、あなたという人は…!」

「さ、予鈴なる前に着替えちゃおう?」


怜くんの方に手を伸ばせば複雑そうな顔をしながらも、その手をとってくれた。








「へぇー、じゃあ怜ちゃんは教室に来るまでずっと名前ちゃんと一緒だったんだねえ」


プールを後にして喋りながら校内を歩いていると偶然にも渚と会った。
私と怜くんが二人でいること自体そんなに珍しいことではないが、いつもとほんの少し雰囲気の違う私たちに目敏く気付いた渚はしつこく事情聴取してくるので私がついに折れてしまった。


「それで、怜ちゃんは泳げるようになったの?」

「お…っ」


恐らく「驚かないでくださいよ!」と意気揚々に言うつもりであったろう怜くんの口を押さえて、私が渚に「放課後までのお楽しみってことで」と答えた。
疑問そうに視線をぶつけてくる怜くんにしゃがんでくれるよう手招きする。


「あとで遙たちも含めて披露した方がかっこよくない?」

「名前先輩が言うなら…」


声を潜めて渚に聞こえないよう話すと「おもしろくない!」と少し怒った声がした。







予鈴が鳴ったので教室へ帰ると真琴と遙が早くも席についていた。遙の前の席が私の席である。
私に気づいた真琴がおはよう、と声をかけてきたのでそれにおはようと返す。


「名前遅かったね?」

「うん、ちょっとやることがあって」

「そっか。…なにか良いことあったの?」

「え?」

「嬉しそうだよ」


真琴の言葉に、思わず自分の顔を触ってしまう。顔に出ないように気をつけていたつもりだったが、真琴には分かってしまったらしい。
さすが幼馴染み、と言えば優しく細められる目。


「名前」


今までずっと黙っていた遙が私の髪に触れてきた。遙から触れてくるのは珍しく、少し緊張してしまう。


「なに?」

「髪、濡れてる」


軽く髪を引っ張られて遙の方に近付くと遙も顔を寄せてくる。
ハル?!なんて真琴の叫びを横目に、遙はクンクンと私の髪の匂いをかいだ。


「ちょ、なに嗅いでんの!」

「名前からプールの匂いがする。入ったのか?」

「!!」


なんだこの幼馴染みたちは、鋭すぎる。
二人から気になる光線を浴びさせられながらも私は前を向いた。ずるい、と遙が呟いたのは聞かなかったことにする。

そして来る放課後。
幼馴染み組と肩を並べてプールへと向かう。朝ぶりに会った渚に「僕、名前ちゃんの言葉が気になって授業に集中できなかったんだからねぇ!」と何故か思い切り抱きしめられた。渚の男の子とは思えない柔らかい香りに私も抱きしめ返してやれば、嬉しそうに頬擦りしてきたので可愛いなぁと和んでいると、遙に頭を叩かれた。渚が。




「あれ誰?ハルちゃん?」

「いやでもハルは…」


プールへと着いた私たちはそこで泳ぐ人物に注目した。
颯爽と水を掻く姿に、この場にいない遙だろうと予想するのは当然だ。けれども泳がれているのはバッタ。


「俺じゃない」


ひょこりと現れた遙に、真琴と渚はじゃああれは…?とプールで泳ぐ彼を凝視する。
がんばったね怜くん、と心の中で呼びかけて私も更衣室へ向かった。

久々に泳ごうと思う。
勝負は好きじゃないから、自由に。




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