私は彼みたいに100年もの長い時を生きたわけではない。

しかし私の中に流れていた時間から外されてしまった今、奇妙なことに彼の時間とぴったりくっついているように同じになってしまった。
私は100年もの長い時を生きているわけではないが、100年以上の長い時を一瞬で生きてしまっている。







エジプト、カイロでDIOとして生きる彼の過去を知るものはいない。ある一族との因縁はどうやって始まったのか、彼はなぜ吸血鬼となってしまったのか。今の自分しか知らない世界に彼、DIOは満足していた。
けれども例外はあった。

時折、無性に胸の奥底が乾ききってしまうことに彼はどうしても耐えられなかった。そんなときは何も知らない無垢な女を一人連れてきて、可愛がり、懐かせ、自分の話をする。そうして過去の自分を知っているのはお前だけではない、と彼は私に告げるのだ。

女は決まって東洋人だった。
見た目に共通するものはなく、ただ純粋で素直そうな子たちばかりであった。テレンスが言うには、貴方に雰囲気が似ています、とのこと。私はあんなにキレイではないよ、と返すといつもと同じように頭を撫でられる。

彼はきっかり一週間で喉の渇きがなくなる。
用済みになってしまった女は、彼の血肉になるのが常だった。そしてその後二日間は機嫌が悪い。
一度だけ、偶然館の中で鉢合わせてしまったことがある。彼はほんの少し驚きに目を丸くし、そして悲しのか悔しいのか苛立たしいのかよくわからない表情に顔を歪めた。
「私を見るな」
小さく呟かれた言葉と裏腹に、私の両頬を優しく包んでじっと目を合わせる。深い深紅の瞳に、私が映っていた。

彼は喉が乾く度、女を連れてきて一時の潤いを得る。それが虚しい行為だと、ヴァニラにぽつりと漏らしたことを私は知っている。



「名前」

考えに耽っていると、名前を呼ばれた。
閉じていた目をあけ、声がした方に顔を向けた。

「いいか、名前。お前だけが俺の過去を知っているんじゃあないんだ。お前だけが私の傷を知っているわけじゃあないんだ。自惚れるなよ、お前の命は俺が握っているんだ。俺が一言指せばお前のような今にも消えてしまいそうなちっぽけな命など、いつこの場からなくなってもおかしくはない。いいか、刻めよ。お前は私がいるから、生きていられるんだ。それを、俺の過去を知っているからといっていい気になるんじゃあない。私にとってお前は利益にすらならない、いらない存在なんだ。そんなお前を生かしてやってるんだ。いいか?分かっているか」

ディオ、ディオ。
大丈夫だよ、泣かないで。








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