そらの孔分室、そう呼ばれる場所で彼と出会った。




そこは恐ろしく静かで私が立てる音以外なにも聞こえない。風の通る音さえしないのだから、自分が呼吸をしていることが分からなくなって時折大きく息を吐き出した。

この図書館には果てしない程たくさんの本たちが肩を並べあっていて、詳しくは知らないが時には記憶となって開かれることもある。その一つを手にとってじっくり観察してみた。特にこれといって変わった外装ではない。あるとすれば、タイトルが「カエルくん〜」で全て始まっているところだろうか。中を開く気にはなれず、そのまま元の場所にやんわりと戻す。

誰もいない。


不意にカツン、カツン、と靴の鳴る音が聞こえた。
随分階段を降りてしまったから、この場に来るのにはだいぶ時間がかかる。じっと上の階から降ってくる音に耳を澄まし、一体どんな人が降りてくるのかと想像した。



「おや?」



カツン、と一番近くに音を感じたと思ったら、それと同時に低いよく通る声が聞こえた。
目を開けて、その人物を捉える。



「僕と彼女以外に入れる人間がいるとはね、全く珍しいものだ。君はどこから来たんだい?」



彼の問いに首を傾げた。わたしもわからない。わたしは一体どこから来たのだろう。



「分からないのかい?」

分からない

「へえ」



綺麗な桃色の髪を揺らして彼はゆっくりわたしとの距離を詰める。その動作はとても優雅で、思わず見惚れてしまうほど。透き通るような白い肌に長い睫毛、髪よりも濃い桃色の瞳にわたしが映っていた。



「僕は5年前、ある女の子に拒まれてしまったんだ。僕と同類の、唯一の存在に」



唐突に話し始めた彼はわたしの唇を人差し指で優しくなぞり、頬にそっと手を添えた。それだけでわたしは彼に捕らわれ、逃げられないような錯覚に陥る。



「君は、――僕が知っている所から来た人間ではないみたいだね。一体どこから来たのかな?」

…分からない

「別にいいんだ、その答えを探さなくても」



もう片方の手で腕を掴まれ一気に強い力で引き寄せられる。彼の腕に全てを預ける形で倒せられた体は、今度こそ全ての自由を奪われたみたいだ。



「君は…僕の傍にいてくれる?」



静かに落とされた口付けは、すべてを手放すという誓い。








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