私が幹康さんに話していることはいくらでも反論できるような内容だ。隙はそこかしこにある。
しかし、ここで黙るということはそういう考えが幹康さんにもあったということ。これはとても好機。










距離が近い。
しかし距離というのはとても重要だ。近ければ近いほど相手に思いが伝わりやすい。肌をつけるのも有効的。

全て実行済みである。



「……」

「……」



じっと見つめあう。
私の伝えたいこと、伝わるだろうか。

進くんと幹康さんは奈緒さんに血を吸われ、屍鬼にならず死んでいく。ならば、奈緒さんのためにもこの二人の命は生かすべきだ。最低でも1ヶ月はこの村から出ていてほしい。確証はないが、ここにいるよりは安全だ。

しばらくの間、ひたすら視線を合わせていた。
どれくらい経ったのか、幹康さんが小さく息を吐いてそれは終わりを告げた。



「…名前ちゃんに、そんな風に言われるとはなぁ……」

「……すみません、お節介でしたよね」

「いや、そういうことじゃなくて…………ありがとう」



今日、進に話してみる、と言って幹康さんはこの場を去った。

伝わったんだろうか。分からない。




そして9月1日の昼、幹康さんが外場村を出ていった。
私には昨晩連絡があり知っていたのだが、周囲は戸惑いの色を隠せないまま二人を見送った。
先生や静信さんは昔からの付き合いなだけに寂しそうにしていた。

幹康さんが出ていった事は瞬く間に村中へと広まり、老人たちはここのところ頻繁に起きている村人たちの死のせいではないかと噂した。
あながち間違いではない。



二人が出ていったことにより外場村に広がりつつある“疫病”の危機感が増した。
それはつまり動きやすくなったということ。



次の標的は分かっている。













(進め)





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