守る、そう決めたからには行動しなければならない。
現に、徹ちゃんの自宅に招くことなく先日は事なきを得た。しかしこれはほんの線を引いたに過ぎない。その線はいつでも越えられる線だ。線を壁にするなら、もっと大きく出なければならない。










「幹康さんいますかー?」



安森家へ私の声が響く。
いつもなら奈緒さんが真っ先に出迎えてくれるが、今はもういない。少し間を置いてから幹康さんが出てきた。



「やあ名前ちゃん、久しぶりだね」

「お久しぶりです。早速なんですが、少しお話しませんか?」



幹康さんは不思議そうな顔をしながらもコクりと頷いてくれた。
横目で周りに誰もいないことを確認し、寺の方へ向かって歩く。



「大丈夫ですか?」

「え?」



しばらく黙って歩き続け、沈黙がそろそろ苦しくなってきたところで、一歩後ろを歩く幹康さんを振り返り訊ねた。
一瞬なんのことだか分からない顔をされたが、直ぐに思い当たったようで寂しそうに俯く。



「やっぱり、少し堪えるかな…」

「……」

「でも、進もいるからいつまでも悲しんでいられないし…奈緒がいない分、僕が頑張らなきゃって思うんだ」

「…そうですか」



そう言って寂しそうに笑った幹康さんだが、以前と違うのは覚悟を決めた目だろうか。進くんの存在―――親にとって子供という存在はどれだけ心強いか。

私は幹康さんの強い瞳に微笑んで、一歩近づく。



「では幹康さん、早急にこの村から出ていってください」

「……え?」

「進くんのためにも、幹康さんのためにも、この村にいては駄目です」

「あ、の…なんでかな…?」



私の突然の言葉に動揺を隠せないようで視線が泳ぎ、口元が引きつっている。
そんな幹康さんに私はまた一歩近づく。



「この村には奈緒さんとの思い出がありすぎます。進くんも赤ちゃんではありません。記憶もしっかりしています」

「だからこそ…ッ、……奈緒のことを忘れさせないでやりたい」

「忘れません。進くんは決してお母さんとの思い出を忘れません。だからこそ、悲しみに押し潰されてしまわないでしょうか」

「!」

「もちろん、進くんには幹康さんもいますしおばあさんやおじいさんもいる。けれど、子供にとって絶対的な存在の母親がいません。この村は小さいですから、奈緒さんが亡くなったことは村中の人が知っています。外を歩く度、進くんには同情の視線が向けられるでしょう。進くんはそれに耐えられますか?」

「それ、は………」

「言ってしまえば女はいざというときに強い生き物です。しかし進くんは男の子。愛情がほしい盛りの、男の子です」

「………」

「進くんのために、新しい環境へ向かう勇気はありますか?」



私は幹康さんの手を握り、じっと瞳を見つめた。










(説得)









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