あの後、夏野と一緒に寝ているところを徹ちゃんに目撃され、その叫び声で私たちは飛び起きた。私と夏野にとっては、もう半ば家族みたいなものだし家でも時々一緒に寝ていたから慣れっこだったのだけれど、徹ちゃんにとっては中々に堪えたらしく顔を真っ赤にしながら半分泣いていた。
◇
「暑ー…」
一旦家に帰って、服を着替えてからある場所に向かう。 日焼け止めだけでは追いつかないくらい、夏の太陽は物凄い。なので今日は日傘プラス日焼け止めだ。
「ふぅ」
寺までの長い階段の途中で短く息を吐いた。コンクリートが少ないせいか吹く風は冷たく、火照った体を冷ますには丁度良い。 あと少し、と登り慣れた階段をまた一つ上がった。
◇
「静信さん!」
「おや、名前じゃないか。久しぶりだね」
「最近静信さん、忙しかったですもんね」
「まあね…。僕に気を使ってくれたのかい?」
「ふふ。ええ、まあ」
久しぶりにきちんと顔を合わせた静信さんは、この村で育って来たとは思えないくらい肌が白かった。前々から白いとは思っていたけど、さらに白くなった気がする。 …葬式続きで疲れているのかもしれない。
「上がって」と促されて、寺の中に入ると蝉の声が遠くなる。 相変わらず此処は綺麗な空気で満ちている。思わず背筋が伸びるのを感じた。
「なんだか本当に久しぶりな気がする、また背が伸びた?」
「ふふ、大袈裟だなあ。静信さんは少し痩せました?」
「そうかな?自分では変わってないと思うんだけど…」
「少し疲れてるんじゃないですか?体調には気をつけて下さいね」
いつもの部屋に通されて、お茶を持ってくると言い残した静信さんを見送り、暇を持て余していると近くにあった作文用紙が目に入る。 もしかして新作の小説かな、と半分好奇心で手に取ると、そこには日付と名前が記されていた。左に進むほど、日付は新しいものになっていく。
「これは……」
亡くなった人の名前だ。 淡々と整った文字で書かれたそれに思わず身震いする。
「お待たせ」
「あ…」
静かに現れた静信さんと目が会う。そのまま視線は私の手元に注がれた。
「読んだ?」
「す、すみません…勝手に」
「構わないよ」
「……」
静信さんは私の隣に腰を下ろすと、名前が書かれた部分をゆっくり撫でた。
「………短期間で、たくさんの方々が亡くなっている」
「はい…」
「伝染病…。僕は、伝染病じゃないかと考えている」
近距離で私の瞳を見つめる静信さんの目は強い力が宿っていた。 私もじっと見つめ返して、一つ、息を吸う。
「伝染病ではありません」
言い切る私に、静信さんの瞳は僅かに揺れる。
「静信さん、あなたに忠告しておきます。夜、不用意に出歩かないで下さい。なるべくここに、寺にいて下さい。なにかあったら直ぐに私に相談して下さい。誰よりも先に、私に相談して下さい。そして、決して―――」
見つめる。 見つめ返される。 逸らさない。
「――――決して、倒れてはいけません」
(忠告)
|