「よかったら今度「あっ流れ星!」えぇッどこだ!」



私が指をさした方向を必死で探す徹ちゃん。
焦った。冷や汗が止まらない。夏の筈なのに寒いと感じてしまうほど。



「なんだよー、なかったじゃん」

「徹ちゃんが遅いからいけないの」

「なんだとう!」



ふざけあって、一瞬視線を徹ちゃんから辰巳に移すと、僅かに苛立っているように見える。そろそろここに居てはまずい。
辰巳が口を開きかけたのを確認してから、思い出したかのように私は声を張り上げた。



「あぁ!そういえば私お風呂のお湯頼まれてたんだ!」

「はぇ?そんなこと名前に頼まないだろ?」

「いやいやいや、そうでもないよ?さ、早く帰らなきゃ!じ、じゃあごめんなさい慌ただしくて…私たちこれで失礼します!」



早口で捲し立ててから徹ちゃんの背中をぐいぐい押して辰巳から遠ざける。
止める理由もない辰巳は「はい、それではまた!」と笑って私たちに背中を向けた。その際に小さく聞こえた舌打ちが、どうにかこの場を諦めた印。

よかった…、ある程度歩いてから大きく溜め息を吐く。



「なんか今日の名前おかしくないか?」



何にも知らない徹ちゃんの頬をつねっておいた。











どうにかして徹ちゃんは守る事が出来た。しかし油断は大敵だ。私が知らない間に二人は会っているのかもしれないし、もう招いてしまってるかもしれない。
そうすると防ぎようがないが、知っている所だけでも、せめてなかった事に出来たのは収穫だ。



「ん…」



眩しい。
太陽の光に意識が段々と覚醒していく。気持ちが良い目覚めだ。頭はスッキリと軽く、久しぶりに安心して眠れたのかもしれない。

隣のベッドには葵がまだ気持ち良さそうに眠っている。

ひっそりと起き上がって、寝間着から普段着に着替える。洗面台で身なりを整えてから二人のいる徹ちゃんの部屋へと階段を上がった。



「おはよーございます…」



そろそろとドアを開ければパッチリ目覚めている夏野と目が合った。徹ちゃんを起こさないために「なんだ、起きてたの」と口パクで伝えると手招きをされる。
それに従って、忍び足で夏野の傍まで行くと布団を持ち上げられた。



「え、まだ寝るの?」

「俺たち以外起きてないだろ」

「まあ確かに」



するりと布団の中に入って、近すぎない程度に距離を開ける。



「寝れた?」

「ああ、ぐっすりな」

「よかった。気持ち良さそうだったもんね」

「まあな、家ではこんなに眠れない」

「…うん」



夏野の顔から少し隈が減った気がする。やんわり頭を撫でると、細められる瞳。



「眠くなった?」

「ん…」

「じゃあ私も、もう一眠りしようかな」



うとうとし出した夏野に、布団から出ようと身動ぐと腕を掴まれる。



「ここでいいだろ」

「…狭くない?」

「平気、名前がいると…安心する…」



後ろから抱きしめられるように腕を回され、髪に顔を埋められる。なんだかんだで甘えてくる夏野に頬が緩む。
少し経って規則的な寝息が聞こえると、私もそれにつられるように意識を手放した。










(二度寝)












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