「なんか俺喉乾いちゃった。名前は?」

「私も!」

「じゃあ自販機行くか!」



財布は家にあると徹ちゃんに言えばそれくらい奢ってやると気前良い言葉が返された。有り難くお言葉に甘えさせてもらおうと寝ている夏野を一見してから武藤家を出た。



「やっぱ、ここは星綺麗だね」

「田舎だからなぁ。名前が住んでたところからは見えないのか?」

「んー…ぽつ、ぽつとしか見えないかな」

「そっかぁ」



そこで口を閉ざして、徹ちゃんと一緒に空を見上げた。降り注いできそうなほど静かに輝いている星たちは、まるで私自身を包んでくれているようで、なんだか幸せな気持ちになった。



「すっごく遠いのに、掴めそうな気がする」

「ああ、ほんとに…」

「……徹ちゃんってロマンチストだね」

「なッ!名前が言い出したんだろお!」



徹ちゃんが怯んだような情けない声を出して、思わずふき出した。








「あっ」



チャリンと音を立てて百円玉が落ちた。その音と同時に一瞬寒気が走る。振り向いて辺りを確認するも夜の暗さでよく分からない。ぞわぞわした感触のする自分の腕を擦る。



「どうした?」

「ん、なんでもないよ!それより、100円落としちゃったの?」

「うーん。どうやら自販機の下に入ったみたいで…」



自販機の下を覗く徹ちゃんを尻目に考えてみる。
ここで何か起きただろうか。なぜか上手く思い出せない。けれどとても大切な場面だったはず。



「や!どうかしましたか?」



不意に現れた声。
動揺で目が見開く。



「…どなた?」



徹ちゃんの不思議そうな声にハッと我に返る。動揺を知られてはいけない、そう思ってなんとか心を落ち着かせた。二人が会話をしている内に、笑顔をつくる。



「辰巳さんっ」

「やや!名前さんではないですか!」

「この間はお世話になりました。ご迷惑をおかけしてしまって…」

「いえいえ、お役に立ててよかったです!」



ニコニコ笑い合う私たちに、ポカンと口を開けた徹ちゃんが目に入る。そういえば徹ちゃんには辰巳さんのことを話していなかった。わざわざ話す内容でもないけれど。



「そういえば、こんな所でどうなさったんですか?」

「いやぁ、実は自販機の下に100円が転がっちゃって…」

「ぬぅ、なんと!!」



そこで辰巳が偶然にも持ち合わせていた孫の手により100円玉は救済された。なぜ持っていたのかは敢えて触れないでおこう。



「いやぁーありがとう!助かったよ」

「よかったね徹ちゃん」

「おぅ!俺、そこの家の武藤徹って言うんだ―――」



あ―――駄目だ、いけない。



「よかったら」




その先は―――









(ダメ)













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