奈緒さんが亡くなった。
死者が続く外場村では若御院がひっきりなしに呼ばれていた。一人一人の死を慈しみ、手を合わせて冥福を祈る。
私は葬式の列を遠目に見ていた。黒い点々が連なるように蠢いている。悲しみの空気に包まれたそれは、魂を運ぶ死神たちの様にも思えた。
◇
夜、夏野がいる武藤家に向かって歩いていると怒りを露にした正雄が乱暴にドアを閉める様子が目に入った。 大方、また夏野と揉めたんだろう。
「あ、名前ちゃん…」
「久しぶり!なんかあったの?」
「聞いてくれよ名前ちゃん!夏野のやつ、清水の遺品断ったんだぜ!それを俺が受け取ってやれって言っただけなのにキレやがったんだ!」
「あらら…」
「徹ちゃんもアイツを庇うし、俺が悪者扱いさ!」
事の内容を知っているが故に、正雄は夏野の地雷を踏んでしまい返り討ちにあったという無惨な負けに思わず笑いそうになった。 正雄は相当悔しいようで、私が味方についてくれると期待を込めた目で見つめている。
「いけない子ね、夏野ったら」
「!!そうだろ!?」
冗談まじりにクスリと笑いながら言えば喜びに満ちた瞳が輝いた。私が味方をしてくれたとでも勘違いしているのだろう。
「じゃあ私からも言っておくね」
「おう!頼んだぜ名前ちゃん!やっぱ名前ちゃんは違うや!」
手を振り、正雄と別れると徹ちゃんの家のドアを開けた。 正雄が帰ってきたのかと恐る恐る顔を覗かせる保と目が合う。私だと解るとパッと笑顔になって「兄貴たちなら部屋にいるよ!」と上を指差した。 階段を駆け上がって扉を開ける。
「徹ちゃーん!」
「お、名前!最近よく来るな!」
「徹ちゃんの顔が見たくてねー」
「なぇっ!」
「なにその声」
顔を真っ赤にして驚く徹ちゃんに笑って、先ほどから視線が痛いベッドの方に目をやった。 じっと不機嫌そうにこちらを見つめる夏野に、正雄の事を思い出す。
「さっき正雄に会ったよ」
「あー…」
「どうせ名前に愚痴でも吐いてたんだろ」
「ま、ね」
徹ちゃんと二人で苦笑を浮かべていると、眠そうにウトウトしだす夏野に気がついた。
「夏野眠い?」
「ん………今日ここで寝る…」
「いやそれは俺の布団だし!」
パタリと体を横たえる夏野に徹ちゃんは困ったような声を出した。確かに夏野が寝れば徹ちゃんの場所がなくなってしまう。この前私が泊まったときはどうしていたんだろう。
「やれやれ」
「ごめんね徹ちゃん。寝かせてあげてね」
優しく布団をかけてやれば気持ちよさそうに緩む口元。寝ている姿はこんなに可愛いのに、なんて思ってしまう。
「いや、俺は大丈夫だよ」
安心しきって眠る夏野に、お互い目を合わせて笑った。
(おやすみ)
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