「おーい名前ー」

「ん…」



肩を揺さぶられて重い瞼を持ち上げると目の前に徹ちゃんの顔が見えた。あれ、なんで徹ちゃんが私の部屋にいるんだろう。ぼんやり考えて、そういえば昨晩は武藤家に泊まらせてもらったんだと思い出した。



「起きたかー?」

「んー……珍しいね、徹ちゃんが私より早起きなんて」

「まあ今日は約束してるからな!あー…その、名前もよかったら、一緒に…」

「私?いいけど」

「!!まじか!」



徹ちゃんは嬉しそうにはしゃぎながら「じゃあ下で待ってるから!」と、部屋を出ていった。
徹ちゃんは元気だなあ、なんて思いながら私もベッドから起き上がっていつの間にか用意されていた葵の服に着替えた。










「あれ、律っちゃん」

「おはよー名前ちゃん」



玄関を出れば律っちゃんが私を出迎えてくれて、その後ろには車と、車を挟んで徹ちゃんがその場にいた。そういえば徹ちゃんが律っちゃんに車の練習を頼んでたシーンあったな。



「これ、徹ちゃんの車?」

「そうだよ。名前と律っちゃんには車の練習に付き合ってもらいたいんだ」

「律っちゃんも?」

「そう、よろしくね!名前ちゃんが一緒で嬉しいっ!」



律っちゃんは満面の笑みで私の腕を掴むと、助手席の前に私を立たせた。



「え?ここ助手席だよ?」

「徹くんが名前ちゃんが隣だと安心するって!」

「ええ?」



思わず徹ちゃんを見ると、顔を真っ赤にして何か慌てていた。なんだそれ、意味がわからない。徹ちゃんは律っちゃんが隣だと緊張するってことかな。

私が大人しく助手席に乗り込むと、徹ちゃんも律っちゃんもそれぞれの位置に座って車のエンジンを起動させた。








「おおい夏野ーっ!!」



休憩を取りながら何時間か車を走らせていると前方に夏野の姿を発見した。徹ちゃんが窓を開けて声をかけると、気だるそうに振り向いた夏野と目があった。



「制服なんか着てどこ行ってたんだよ。まだ夏休みなのにー!」

「登校日だ。つか徹ちゃん車の免許とれたのか?」



汗でびっしょり濡れた顔を覗かせて、冷房で冷やされているはずの車の中にさえ夏の暑さが染み込んでくるような気がした。



「てかこんな暑い中なんで歩いてんだ?さぁ乗った乗った!」



夏野が車に乗り込んで、助手席にいる私と目が合うと、ジロリと軽く睨まれる。



「名前、昨日徹ちゃん家に泊まったんだってな」

「え!」

「あー、俺が昨日電話しといたんだ。心配してるだろうと思って」

「そうだったんだ。ありがとう、徹ちゃん」



えへへ、と笑う徹ちゃんの頬に夏野が手を伸ばして思いきりつねる。「ちょ、なにしてんの夏野!」と、痛がる徹ちゃんの頭を撫でると「だらしない顔してるからだよ」とそっぽを向かれる。
ちょっと可愛いなんて思ったのは秘密にしておく。



「じゃあずっと歩いてたんだ」

「ああ。電車もないんだものな、最低だ。寝不足だし、なんだかぐったりだよ」

「寝不足?」

「こら、前見て!」



徹ちゃんが夏野の言葉に反応して振り向くと、夏野の隣にいる律っちゃんが徹ちゃんの頭を叩いた。
そういえば最近、また視線が気になると言っていた。そのせいで昨日はおろか、ここのところ寝不足が続いているのだろう。しかも昨日は私もいなかったから、余計に神経を使ったのかもしれない。


チラリとバックミラー越しに夏野を見れば、ぐったりと窓の外に視線を向ける姿が映った。










(気温)














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