正解と間違い。 それを決めたのは人。 つまり真実とは人がいるからこそ成り立つ事柄。 人がいなければ正解などないし、もちろん間違いもない。
しかしそれが人ではなく、動物だとしたら。 人のように理性を働かせることなく本能のままに生きる動物だとしたら。
そこに成り立つ真実はあるのだろうか。
◇
静信さんのお寺を後にして、私は自宅へと向かっていた。気持ちはだいぶ落ち着いて、田舎の朝をたっぷり堪能出来るくらいに回復した。自分でも知らないうちに気分が滅入っていたのだろう。
出てきたように静かに戸を開けて、そろりと部屋に戻った。 それからじっとベッドへ座って、太陽が高く昇るのを待った。
「名前?」
不意に聞こえた声にハッと意識が戻る。いつの間にか眠っていたようで固まった身体が少し痛い。 顔を上げれば、こちらをじっと見つめる夏野と目があった。
「いつ帰ってきてたんだ?」
「んー…わかんない。でもみんなまだ寝てたよ」
「ふぅん」
夏野が黙ると一気に私の部屋から音が去って静かになった。 するとまた睡魔がやってきて、うとうとしだすとベッドが揺れて、その振動に目を開けた。
「…?夏野?どうしたの」
「……あのさ」
「うん」
「…俺の、気のせいかもしれないけど…また視線を感じるんだ」
「………」
「清水は死んだはずなのに。おかしいよな」
「……おかしいね」
「……」
「…この村はまだ確か、土葬だったよね?」
唐突に投げ掛けた質問に夏野が私の方を向いて訝しげに頷いた。 私も夏野の方を振り向いて、じっと大きな瞳を見つめる。
「生きていた形のまま、棺に入れて、土をかける」
「ああ」
「火葬にすればよかったのに」
「……?」
意味深に微笑む私を真剣な面持ちで見つめる夏野。まだ私の言っている意味が分からないのか、それとも繋がらないのか。きっと時間の問題。
外は高く昇った太陽によって明るく照らされていた。
(気付いて)
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