「落ち着いた?」
「…はい」
お水を頂いて、こくりと飲み干せば染み渡るように体の中に溶けた。早朝にも関わらず、静信さんは快く迎えてくれて今更ながら寛大だなあ、なんて思う。
「それで、名前ちゃんがこんな朝早くに来るなんて珍しいよね。どうかしたの?」
「あ、あの…」
グッと拳を握って視線を落とすと、見慣れた座布団が敷かれているのが分かった。この座布団は私専用で、ほとんど同じ装飾だけどその中でも色々な種類があることを私は知っている。
「そういえば、ここのところ忙しかったから名前ちゃんがここに来るのは久しぶりだね」
「あ…、ですね」
中々話だそうとしない私の代わりに静信さんが口を開いた。 静信さんは若御院だから、葬式が開かれる度呼ばれてお経を挙げる。恵ちゃんの時も埋葬する近くにいて、私もその場に居たけれど特に言葉を交わすことなく、お開きになった時点で直ぐ様立ち去ったのを覚えている。
「……怖い夢を、見たんです」
「夢?」
「はい…」
ポツリ、ポツリ、と話し始めた私の手を優しく握って静信さんは次の言葉を待った。
「たくさんの、人が…これからも亡くなり続けて……」
「…うん」
「この、村が……静かに、終わっていくんです」
ピクリと僅かに私の手に重ねられている静信さんの手が反応を示して、顔を上げると何かを考えているような難しい表情をした静信さんがいた。
そのまま動かない静信さんの手にもう片方の手のひらを重ねて「静信さん?」と呼ぶと、弾かれたように私を視界に捉えた。
「あ――、ごめんね…ちょっと考え込んじゃって」
「いえ…。大丈夫ですか?」
「うん、心配いらないよ」
そう言って笑った静信さんの顔色は、とても良いとは言えなかった。じっと見つめていると頭を優しく撫でられ、何も言えなくなってしまう。
「ありがとう、名前ちゃん」
(知っている)
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