ああ、始まってしまった
スタートを切ってしまった
既に走り出してしまった

とめられない、やめられない

立ち止まれば自身を死に至らしめるのだから。








8月1日、大川義五郎 村迫秀正
8月5日、村迫三重子
8月6日、後藤田秀司
8月11日、広沢高俊
8月15日、清水恵
8月17日、安森義一
8月18日、大塚康幸


そして8月21日、後藤田ふきさんが亡くなった。

トリップしたからか、眠っている間に日付と名前が脳内に流れた。最初は意味が分からなく訝しげに考えていたが、恵ちゃんの名前と亡くなった日付が一致してピンときた。目が覚めた瞬間ノートにメモを残して、それをじっと見つめる。

――こんなにも

こんなにも沢山の人が亡くなっていたなんて。急に背筋が寒くなって、鳥肌が立つ。…怖い。なによりペースが早い。きっと下見の時点で辰巳当たりが手をかけたんだろう。



「……久しぶりに静信さんのところに行こうかな」



ぽつりと呟く。ここなら大丈夫だと言える安心出来る場所に行きたいと思った。自分だけが屍鬼の弱点を知っていて、自分だけがその場所に行こうだなんて狡いんだろう。けれど、なんだか落ち着かなくて、とりあえず家を出たかった。

ベッドから下りて寝間着を脱いだ後、私服に着替えて静かに部屋を出る。



「名前…?」



早朝のため誰も起きていないと思っていたのだが、どうやら違ったようで急に声をかけられた。跳ねた心臓がバクバクとうるさい。



「夏野、起きてたんだ…」

「まあな」

「……」

「どこに行くんだ?」

「せ、静信さんの所…」



ぴくりと眉が動いて、なんだか悪いことをしているような気分になる。そろりと近付いて、夏野の腕に触れるとひんやり冷たくなっていた。



「夏野も、行く?」

「………いや」

「そっか」



じゃあ行くね、そう言って離れようとすると、手首を掴まれてまた夏野と向き合う形になる。驚いて固まっていると、優しく頬に手が添えられた。



「…どうしたの?」

「顔色」

「え?」

「顔色悪い」

「そうかな…?」

「ああ。最近、多いから…気を付けろよ」

「…うん。ありがとう夏野」



やんわり微笑むと、手首を掴んでいた夏野の腕が離れた。その暖かさを名残惜しく思いながらも、音を立てないように慎重に家を出た。






(死因)








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