「夏野、準備できた?」



あまり開かれることのない夏野の部屋の窓。久々にその窓から差し込む光は、いつもより神秘的に思えた。



「制服でいいんだろ」

「暑いだろうけど、場所が近付いたら第一ボタンも締めなよ」



はいはい、と半ば呆れるかのようにため息を吐かれて「はいは一回!」と小突いてやると笑われた。
この時期に正装は暑い。ワイシャツは汗を弾いて肌にピタリと張り付くし、革靴だから靴下は必須。ダラダラ流れる汗を鬱陶しく思いながらも、葬式が終わるまで耐えなければならない。


清水恵が死んだ。


元々小さい村であるここは、どんなに小さな情報でも広がるのは早く、ましてや恵ちゃんのような若い女の子が死んだとあってはその情報の侵食力は果てしない。もう村中の誰もが知っているだろう。



「じゃあ先行ってるね」

「ああ」



私は恵ちゃんと比較的仲が良かったから夏野よりも先に出て、最期まで見送ることになっている。
ここ最近ずっと着ていなかった制服は、まるで私を忘れたみたいに冷たかった。








「先生」

「ん?ああ、名前か」



埋葬が終わり、お開きとなった葬式を後にして帰路についていると尾崎先生が先を歩いていた。
先生は考え事をしていたのか、私が声をかけるまで気付いていなかったようで驚いた様に眉を上げる。



「…恵ちゃんの」

「はい」

「そうか」



私の服装をじっと見て、先生は目を伏せた。

先生の診断は誤ってなんかいない。ただ、誤算があっただけだ。けれど先生は一人の医者として責任を感じている。老人ならまだしも、若い恵ちゃんには未来があり夢もあった。それを、奪ってしまったとでも思っているのだろう。そして、医者としてその原因を突き止めたいとも。



「貧血だったんだ、それ以外なにもなかった」

「……」

「俺の誤診だったのか?」

「……」

「今じゃそれさえも分かりゃしない。…せめて、せめて――」

「先生」



ハッと我に返って私を振り返る先生を静かに見つめた。慰めでもなく、戒めでもない。





「運命、だったのかもしれません」


ああ、人の死とは限りなく冷たい。










(土葬)








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