清水恵が見つかった。 捜索は深夜にまで続いて、恵自身を見つけたのは次の日の午前三時だった。
疲れきって帰ってきた夏野の両親は、私が出した暖かいミルクを飲んだ後眠りについた。
「こんにちはー」
恵ちゃんの様子を見に私は清水家に来た。 ここに来るのは初めてではない。いつもみたいに明るい恵ちゃんの声が聞こえない事を寂しく思う。
「あら名前ちゃん、恵に会いに来てくれたの?」
私の声を聞いた恵ちゃんの両親がドアを開けて、にこやかに言う。それに頷いて、部屋へ上がらせてもらった。
「恵ちゃん?来たよ」
ベッドの上で横になっている恵ちゃんに近付いて声をかけた。恵ちゃんはゆっくり瞼を持ち上げて、視界に私を捉えると嬉しそうに笑う。
「体調はどう?」
「なんか…ボーッとする」
「そっか…、食欲ないんだって?」
「…うん」
「食べなきゃ元気にならないよ。ゼリー買ってきたから、食べよう?」
恵ちゃんの上半身を起こしてゼリーを口に運ぶ。多少強引だけど、恵ちゃんには少しでも元気になってもらいたい。
「ありがとう、名前ちゃん」
「ううん、全然」
ゼリーを半分くらい食べたところでもういらないと言われる。思ったより食べてくれてよかった。 背中を支えながら体をベッドに戻して、上からかけ布団を被せた。
「眠い?」
「うん…とても」
「じゃあ、寝ていいよ」
安心させるように優しく頭を撫でれば静かに瞼を閉じた。
今ならまだ取り返せる。
その考えが一瞬脳内を過った。立ち上がって部屋の窓の近くにいき、じっくり桟を確かめる。 玄関からではなくて窓の方から侵入したと見て間違いはないはずだ。少しでも汚れも見過ごさないためにティッシュを取り出して全体的に拭く。
「…あった」
元々の窓の汚れを差し引いてもこれはおかしい。あきらかに山道を歩いてきたような、小さな泥がティッシュに付着していた。 ―――見つけた。
「お大事にね、恵ちゃん」
恵ちゃんの方を振り返って微笑みかけてから、私は清水家を後にした。もちろん、ティッシュは真空パックに入れて。
別にこれを提示して犯人を追い詰めようなどとは考えていない。そもそも証拠にすらならないし。
これはあくまで私の中の、私の証拠。
(窓)
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