「清水が行方不明?」
夜、夏野の両親に呼ばれリビングに顔を出すと夏野が声を上げた。 私がそっと近付くと、私の存在に気付いたのか三人と目が会う。
「どうかしたんですか?」
少しの沈黙の後、呟くように声を発すれば夏野が振り向いた。 じっと見上げれば「清水が行方不明らしい」とだけ告げられる。
「それでね、恵ちゃんと名前ちゃんが一緒にいるところを見たって言う人がいて、それで…」
「ああ…そうだったんですか…。散歩がてら自販機でジュースを買っていたら偶然会ったんです」
夏野に続くように小出さんがゆっくり話し出した。私の答えを聞いて安心したのか不安げに揺れていた瞳が優しく細められる。
「それで、恵ちゃんは?」
「まだ、行方が分からないみたいなの…」
時計を見てみれば九時近くを指していた。 人口が少ないこの村にはあまり外灯がなく山に囲まれているため夜になると、景色が変わったように真っ暗闇になる。懐中電灯等がなければ、地理に詳しい村の者でも迷ってしまう程である。
「とりあえず名前ちゃんと夏野は家にいなさい、わたしたちは恵ちゃんを探しにちょっと行ってくるから」
「は、はい…気をつけて!」
手を振る二人に私も振り返して、玄関を閉めた。 とうとう始まったんだ。 確実に終わりに向かう物語に恐怖で体が震える。やはり、怖い
「名前…?」
肩に手を置かれてびくりと弾かれたように夏野を見やれば、夏野も目を丸くして私を見ていた。
「どうした?」
「あ…ううん、なんでもないよ」
「………」
いつもより人の少ないこの家はしんと静まりかえっていて、遠くの方から恵ちゃんを呼ぶ声が聞こえた。近くに夏野がいる筈なのに、なんだか現実味がない。
「…静かだね」
「……」
震える私に気付いたのか、不意に夏野の手が伸びてきて暖かさに包まれた。じんわりと体温が伝わる。
「夏、野…?」
「落ち着け」
「……」
「きっと見つかる」
夏野は私が恵ちゃんを心配して震えていると勘違いしたらしい。 恵ちゃんはちゃんと見つかるし、私が考えていることは違ったけど、夏野の優しさが嬉しかった。
私もぎゅっと抱きしめ返して、ありがとうと心の中で呟いた。
(体温)
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