「あの…お姉さんは驚かなかったんですか」
近くの公園までなんとか歩いて、ベンチに座りながら背中を擦っていると不意に少年が声を発した。相変わらず気分は優れないようで顔色は真っ青だ。
「うーん、一応知り合いだからかな…」
「知り合い!?あんな訳の分からない人たちの!?」
「ちょ、落ち着いて!」
目をひん剥いて驚く少年に水の入ったペットボトルを差し出して、落ち着けるように背中を擦り続けた。あ、ありがとうございます…と少年は呟いて水を一口飲むとため息を吐いた。
「なんだかすみません…今日会ったばかりの方に、こんな…」
「気にしないで。それより私の知り合いが迷惑かけてごめんね」
「いっいえ!もう、大丈夫です!」
ポンと頭に優しく手を置いて微笑むと、少年は慌てたように顔を赤くして立ち上がった。最後に、本当にありがとうございました!と頭を下げてから私の前から去っていった。 …可愛いな。一人ニヤける口元を手で押さえ、空を見上げる。次に会うのはもっと先か、それとも近い日か。どちらにしても、いつまでここに居れるか分からない。だからこそ、また会えたらいいなと思った。
「ちゃおっス」
「わ!びっくりした…リボーンか…」
「さっきのはボランティアか?優しいな」
「なにそれ嫌味?違うよ、別に」
態とらしくリボーンに言われ、つい刺々しく返してしまった。 けれど、別にボランティアだとか優しいからだとか、そういうのではない。きっと、あの子だから――入江正一だからこそあそこまでしたのだと思う。普通の一般人になら、ハンカチを渡して直ぐにさよならだったはずだ。………たぶん。
「じゃあなんだったんだ?」
「………」
「…ただの一般人じゃないのか」
「一般人だよ」
少なくとも今は。 私の回答に納得がいかないのか、リボーンは微妙な表情をしていた(元々わかりにくい顔だけど)。それにニッコリ微笑んで、「あんまり騒々しいと迷惑だよー」と残して歩きだした。
「だからと言って静かになるような家じゃねーぞ」
リボーンが小さく呟いた言葉を、私は知らない。
(接触)
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