「座りなよ」

「はっはい!…あの、これ、ありがとうございました」



雲雀さんの近くに来たはいいものの、どこまで近付いていいのか分からずウロウロしていると声がかかった。
言われた通りにその場に座って、改めてお礼をいいながらリボンを差し出す。雲雀さんはチラリと私の手元にあるリボンに視線を移してから、また直ぐに前を向いてしまった。どっどうすれば!



「雲雀さん…?」



恐る恐る名前を呼んでみれば僅かに反応を示して、ゆっくりこちらを振り向いた。



「遠い」

「え?」

「ここから君の手にあるものが届くと思う?」



いや手を伸ばせばいけるんじゃないかという言葉は飲み込んで、大人しく先ほどよりも距離を詰める。その一連の動作をじっと見られて思わず転びそうになった。



「あの、これ…ありがとうございました」

「うん」

「……じゃあ、私はこれで」

「待ちなよ」



グッと手首を掴まれて、引き寄せられる。人一人分空いていた距離も今はなくなって目の前に雲雀さんの顔があった。前から知ってはいたけど端正な顔立ちに頬が熱くなるのを感じる。



「なななななんでしょうか!」

「風紀委員に入らない?」

「……ハイ?」

「名前委員会に入ってないでしょ」

「え、まあ、そうですけど…」

「ダメ?」



若干の上目遣い攻撃。つり目なのにすごく可愛く見える。



「あ、あ、あのっ!考えさせて下さい!!」



このままでは雲雀さんに圧されて頷いてしまうところだったので、つい叫んでしまった。ただでさえ流されやすい性格なのに、雲雀さんは強引な人だから「拒否権はないよ」なんて言われたら断れない。だからせめて考えさせてほしい、そう思った。

叫んだ後、ハッとして雲雀さんを見ると目を丸くして驚いていた。
やばい、咬み殺される。



「うん、わかった」

「へ?」

「返事は急がないよ、答えが決まったら応接室に来て」



やんわりと心なしか嬉しそうに微笑んだ雲雀さんは、私の頭を軽く撫でて屋上を去っていった。
学校には予鈴を知らせるチャイムが鳴り響き、続々と登校する生徒が目に入った。







(固まる)










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