異変に気付いたのは待ち合わせの時間に遅れたことのない友人が、待ち合わせの時間を過ぎても一向に現れないことからだった。 何かあったのだろうかと携帯で連絡をしてみてもコールが鳴り続けるだけ。仕方がないので家に帰ろうと立ち上がるとどこかで聞いたことのある声がした。
「いーざーやーくーん。どうして池袋にいるのかなぁ?」
「用事があるからに決まってるじゃない!シズちゃんこそ、まだ勤務時間じゃないの?」
低い唸るような声と共にすごい物音がしたかと思うと、黒いファー付きの服を着た男に向かって金髪でバーテンダーのような服を着た男が自動販売機を投げていた。人の多い池袋でも二人の周りには遠巻きにしか伺えない。初めて見る人によっては驚きの余り腰を抜かすかもしれない状況で、私の心は至って冷静だった。
私はこの二人を知っている。
恐怖というより歓喜に近い感情。もちろん知り合いでもなんでもない、言ってしまえば違う次元の住人である二人なわけだが、どうしてここにいるのか。あの二人と似ている、実際にいる人物だとは考え難い。 フラフラと誘われるように私は二人に近付いていった。周りの人は既に慣れているのか、わざわざ足を止めて見る人の方が少ない。
尚も喧嘩という名の騒ぎを起こしている二人は私に気付く筈もなく。そしてそれは私も同じで、平和島静雄がガードレールを振り回していることに気が付かなかった。
「あ」
最初に気付いたのは誰だったのだろうか。だが最初に声を上げたのはその瞬間を一番に目撃した他ならぬ折原臨也だった。
私は意識を手放した。
(最後に見えたのは、)
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