「あのー」
「ひっ!…は、い」
春もうらら、ぽっかりとした暖かさに包まれている今日、入学式というイベントに誰もが緊張しながらも足を運んでいた。わたしもその中の一人で、緊張しすぎて昨日はあまり眠れなかったほどだ、そのせいで今、軽く迷子になりつつある。睡眠不足って恐ろしい、曖昧な記憶を手繰り寄せて繋ぎ合わせていくも、中々上手くいかない。
仕方がないので通り過ぎる人に聞いてみようと決意して、さっそく話し掛けたわけだけど、なんだか落ち着きがないというか、挙動不審というか…
「西浦高校って、どこか分かります?」
「にっ、しう、ら…高校?」
目の前の少年はおどおどと目を泳がせながら必死に考えているようだった。なんだか気を遣わせてしまっているみたいなので、「あ、知らないならいいんです。すみません」と言って微笑んだ。少年はわたしの顔をじいっと見てから、はっと思い付いたように目を輝かせた。
「知って、ます!俺、の学校!」
「え?ほんと?」
ぶんぶんと頭を振る仕草はまるで子犬のようで、少し笑えた。つっかえながらも一緒に行きませんかと言ってくれたので、お言葉に甘えることにする。
(名前は三橋廉くんというらしい!)
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