水谷くんと軽いお喋りを交わしている間に、いつのまにか阿部くん三橋くん花井くんで三本勝負をすることになっていて、私は何をすればいいか分からず戸惑っていると隣から水谷くんが「苗字さん、もしかしてマネージャー初めて?」と聞いてきた。
「うん、そうなんだー。あと私、あんまり野球のこと知らないんだよね」
「え、そうなの?じゃあなんで野球部のマネージャーになろうとしたの?」
「友達と一緒にマネージャーするつもりだったんだけどね」
水谷くんと一緒に周りを見渡しても千代ちゃんらしい人影はなく、本当にどうしたのか心配になる。でもきっと連絡くれるだろうし、と携帯を取り出して見ていると「ねー苗字さん!」と名前を呼ばれた。
「連絡先交換しようよ!」
「あ、私も聞きたかったの!」
マネージャーになるなら、選手の連絡先を知らなくてはこれから不便だ。聞くタイミングは解散前くらいでいいかと思っていたのだが、そこはさすがの水谷くんで。なんて自然な流れで連絡先を聞けるんだろう。
「なんだよお前ら!二人でイチャイチャしちゃってさー!オレも名前のアド知りたい!」
「いっ、イチャイチャしてないよ!」
思いもよらぬ言葉に二人して真っ赤になっていると、田島くんが背中にのしかかってくる。
背中に感じる田島くんの体温にさらに赤くなる顔。
「田島離れろ」
「んだよ泉ー!オレもイチャイチャしたい!」
「今するべきことはキャッチボールだろ」
背中にひっつく田島くんをべりっと剥がしてくれたのは、ぱっちりした瞳と頬にそばかすが特徴的な泉と呼ばれた男の子だった。
泉くんは片手にグローブをいくつか抱えていて、私は慌ててそれを手にとった。
「あー、サンキュー」
「ううん、マネージャーがするべきことなのにごめんね。ボールとかってどこにあったの?」
「そこの倉庫みたいなとこ。まだ足りねぇし、一人じゃ重いだろうから手伝う」
「あ、ありがとう!」
泉ズリィ!なんて田島くんの声を聞きながら泉くんと少し離れた倉庫に向かった。
初心者
(一応、言えた)
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