そうだ、と私はあることを思いついて肩に掛けていた鞄の中を漁る。そこからボールペンと小さめのメモを取り出して、みんなの名前やポジションを覚えているだけ書き出す。
一応マネージャーになるんだから野球のルールが曖昧な分、覚えられることは早めに覚えておきたい。
「じゃー次、内野だった人ー!」
「オレ田島!サードで四番だった!」
「俺も四番だったけどぉ、入んのやめますー」
監督の声に一番に反応したのは田島くんで、勢い良く挙手しながらポジションを告げる。それに被さるように声を発したのが長身の帽子を被った男の子。
ん、あれ、もしかしてこの人同じクラスのーーー
「花井、くん?」
「あ?なに」
「やめちゃうの…?」
折角同じクラスで背も高くて(関係ないけど)、ここに集まった仲間みたいな存在だと思ってたのに。少しだけ、いやとても、残念だ。
明らかに落ち込むとさすがに動揺したようで、花井くんから「うっ」と呻くようや声がした。
「いや、だからさ…そりゃ俺は一年しかいなかろーがいいんだけどさ、監督が女ってのはありえねーだろ!」
「!」
花井くんの言葉に監督は目を丸くする。
何とも気まずい雰囲気になってしまったグランドで、一応そのやりとりもこっそりメモに残した。
「名前ちゃん、そこにあるバットとボール取って」
「はっはい!」
監督に言われるまま近くにあった二つを手にとって渡す。それを軽々と持ち上げて、右手にバットを持つとボールを空中に放って、まるでサッカーのリフティングをするように器用にボールを弾いた。
リフティング
(というか、ノック?)
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