※アニメデンアイ






「デント、」


僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。と同時に目前にあったアイリスの顔と唇に感じた柔らかい感触。それは時計に刻まれる時間では一瞬の事だったけど、僕にとってその一瞬はとてもとても長い時間のように思えたんだ。だから、アイリスにキスされたんだ、と気が付いたのは僕の中の時間で少し経った時だった。ふわりと触れた彼女の唇はとても柔らかくてあったかくて、マシュマロみたいな甘い味がした。あまい。あまい。あれ、マシュマロってこんなに甘かっただろうか。


彼女の指先は僕の指先と自然に絡み合っていた。指と指を絡め合う手の繋ぎ方……名前はたしか恋人繋ぎ、とかいう名前だったように思う。まあそんなことはどうでもよくて、僕は彼女の細くて繊細な指先から、そのぬくもりが伝わってくるのが純粋に嬉しかった。このぬくもりをずっと僕のものにできたら、なんて。


そしてくちびるとくちびるが離れた。同時に急激に早くなる鼓動。触れ合ってる時はこんなにどきどきしなかった、のに。アイリスが離れた途端、僕の心臓はまるで離れてしまったアイリスを求めるかのようにとくとくと凄いスピードで波打ちはじめたのだ。それはしばらくの間元に戻る事は無く、僕の独占欲と言うかアイリスを求めているという欲望を自分自身に露呈する結果となった。思考回路もしばらくはぐっちゃぐちゃのままだった。キスの味とか、くちびるのやわらかさとか、アイリスの体温とか、激しくなる僕の鼓動とか。頭にはキスをした瞬間とその直後のことしか無くてそれがぐるぐるぐるぐると頭の中を回っていて。それ以外の事が全く考えられないんだ。


「…………ごめん、びっくり、した、よね」


全く動かない僕を見てアイリスは少し悲しそうに笑って謝罪の言葉を述べた。謝る必要なんてない。びっくりしたけど嬉しかった。そうすぐに言えたら良かったのに。頭はぐちゃぐちゃで動かないし、言おうと思って口を開いても、言葉は喉の奥で塞き止められ出て来なかった。


「あたしね、デントが、す、す、き、なの」


きっと恥かしかったんだろうなぁ。ぎこちない告白は、彼女の言葉は、すっと僕の胸の中に溶ける。その言葉は僕のぐちゃぐちゃになった思考回路を綺麗に整えた。頬を林檎のように赤く染めて少し俯く彼女が愛しくて愛しくて。僕の頬も自然と上気する。僕は彼女の手を両手でそっと、包み込みように握った。再び伝わるぬくもりに緊張がほぐれる。


僕も、


「    」


かたことな言葉だったけど彼女には伝わったみたい。彼女は静かに頷いて、花が咲いたように綺麗に儚く笑った。僕は彼女をそっと抱き締めた。彼女の腰に手を回そうか迷いに迷って止めた。このままでいいような気がした。


彼女のぬくもりが伝わる今この瞬間が、もし夢だったらどうしよう、なんて考えてしまう僕はきっとよっぽどの臆病者なのかも知れない。僕の腕の中で恥ずかしそうにも嬉しそうにも取れるほっぺたが落っこちたような笑顔を浮かべる彼女を見ながら、僕はこの時がずっとずっと続きますように、だなんて自分勝手なねがいごとをしたんだ。










だいすき、あいしてる







title:Largo









ヘタレなんだかそうでないんだかよくわからないデントさんとアイリスちゃん



結憂ちゃんに相互記念として捧げます!