※アニメデンアイ




透き通った水色の海に、白い砂浜。海から吹いてくる潮風を全身で感じて息をする。するとあの海独特の潮の匂いが、鼻を通って胸の中ですっと溶けた。ためしに屈んで砂をひとすくいしてみると、砂はさらさらと手の上を滑って落ちた。心地よい砂の感触。海の匂い。太陽の光。今日のお昼ご飯はここで海を見ながら食べようかなぁ、なんてぼんやりと思っていると、一瞬、太陽の光を反射させてか砂がきらりと光ったような気がした。


近くに行ってみると、光っていたのは砂ではなかったようだ。光っていたそれを拾いあげてみてみると、それはみどりいろのガラスの欠片だった。その欠片は波に揉まれ石や砂に削られたんだろうか角は綺麗に丸くなっていた。きらきら光っているそれは、なんだか宝石みたい。


なんとなく、その欠片を太陽に透かしてみると、きらきら光る新緑の中のその先で、遊んでいる幼い自分が垣間見えたような気がした。サンヨウには海が無かったから、小さい時は出かけた先の海で、こういったガラスの欠片や綺麗な貝殻なんかを集めていたりしていたっけ。


「デント、何してるの?」


欠片を眺めていると、頭上から聞慣れた声が降ってきて。見上げるとアイリスの大きな瞳とばっちり視線が合った。そしてアイリスの視線は、自然と僕の手の中のものへとうつる。


「ふーん、ガラスの欠片かぁ…デントがこんなものに興味を示すなんて、意外と子供ね…」


「そうかい?」


「うん…いつものデントなら海についてテイスティングタイム始めそうだもの」


そう自分で言ってアイリスは、それも子供ね、とくすくす笑っていた。太陽と美しい海に囲まれたこの場所でも彼女の笑顔は他の何よりも美しく愛しく思えてしまうんだ。


でもさ、見てよ、


そう小さく息をはいた僕はもう一度、今度はアイリスにも見えるようにして、ガラスの欠片を太陽に透かしてみた。きらきらとかがやくみどりがアイリスの瞳に落ちる。


わあ…ほんとに綺麗…!


すぐ隣でアイリスが息をのむ音がする。アイリスも、このガラスを通して何かが見えたのかな。


こうしてると、このガラス越しに何かが見えそうな気がしてこないかい?


そう問い掛けて見るとアイリスは小さく頷いた。彼女はガラス越しに何を見たのかな。何が見えたの、って聞いてみたけど彼女は答えてくれなかった。ただ、ひーみーつ!と楽しそうににこにこと笑って言ったから、きっと素敵なものが見えたんだろうな。


とても綺麗なガラスの欠片だったから、僕はそれを持ち帰ることにした。割れないようにそっとズボンのポケットに入れると、アイリスの表情がほんの少しだけ曇った。なにか気に触るようなことでもしたのだろうか。…もしかして。


「アイリス、もしかしてこれ欲しいの?」


「そっそんなことないわよ!子供じゃあるまいし!」


どうやら僕の感は当たったようだ。本当は欲しいくせに…。


どうしたらアイリスに欠片を受け取ってもらえるか少し考えた結果、いい方法を思い付いて、僕はもう一度ズボンのポケットに手を入れた。そして入っていたガラスの欠片を静かに手の中におさめ、その両手でアイリスの手をそっと握る。アイリスは僕の突然の行動に驚いていたみたいだけど何も言わなかった。

僕は、ぬくもりが伝わってくる、僕の手よりも少し小さくて柔らかいその手のひらに、握っていたガラスの欠片をそっと託して、手を離した。


アイリスは手のひらに乗ったガラスの欠片をまじまじと見つめて、あ、あたしは、いらないのに、なんて分かりやすい嘘をぶつぶつと小さく呟いていた。


「アイリスがいらないと思うなら捨てていいよ。これは僕からのささやかなプレゼント。それを無理矢理アイリスに押し付けたのは僕だから、ね?」


そう言って微笑みかけると、アイリスは急に顔を赤くして目を逸してしまった。僕に気持ちを見透かされたことに気が付いたんだろう。変な所で意地をはって、アイリスの方がよっぽど子供に見えてしまう。思わずくすりと笑うと、なに笑ってんのよ、と怒られてしまった。


「おーい!!アイリスー!デントー!何やってんだー?海で遊ぼうぜーッ!」


そんな時、また聞慣れた仲間の声がして。声の方を見やると、サトシがズボンを膝の上まで捲り、そして足だけ少し海に浸かった状態でこちらへと手を振っていた。相変わらずのその様子に自然と笑みが零れる。


「いま行くわよー!!もう、サトシってばほんっっとに子供ね!!」


アイリスはガラスの欠片を握り締めたままサトシの方へ向かって駆け出していった。その瞬間、アイリスがちいさな声で何かを言ったような気がしたけど、なんて言っていたのかまでは分らなかった。


「待ってよ2人共ー!」


そう僕が声を掛けても止まる様子の無かったアイリスが、ある時急に立ち止まった。何をしているんだろうと目を凝らして見てみれば、アイリスは僕があげたあのみどりいろのガラスの欠片を大事そうにそっとスカートのポケットにしまっていて。それを見ていた僕の心は急にぽかぽかしてきた。なんでだろう。どうしてか分からないけどすごく嬉しくて。


僕はまだ手に残っている彼女のぬくもりを感じながら、軽い足取りで2人の方へと歩み出した。








ガラスに映った恋心








title:シングルリアリスト










10月14日デンアイ記念日おめでとう!ほぼ2日、1日クオリティーでごめんなさい…