「おや?ヒヤップ、手に何を持っているんですか?」


買い出しへ行った後の帰り道。僕が両手に荷物の入ったバックを持ち、肩にヒヤップを乗せてあるいていた時の事でした。ヒヤップが手の中を見て何やら嬉しそうにしているのです。尋ねてみると、ヒヤップはその手を僕の顔の前へと伸ばして、それを見せてくれました。


「ビー玉、ですか」


それは綺麗な綺麗なあおいビー玉でした。透明な部分に青い模様が入った、何処にでもあるビー玉です。コーンたちも、昔はよくこんなビー玉で遊んだものです。そのビー玉はヒヤップの手の中で夕日の光を浴びてきらきらと輝いています。一体どこから拾ってきたのでしょうか。たしか、買い出しに家を出た時は持っていなかった筈です。


外に落ちていたものを勝手に拾ってはいけません、と注意したかったのですが、ヒヤップがあまりにも嬉しそうにビー玉を見ていたのでコーンは出掛かったその言葉を静かに飲み込みました。


「いいですか、そのビー玉、帰ったらちゃんと洗うんですよ。外に落ちてたなら汚いかもしれませんからね」










レストランに戻るとデントとポッドは忙しそうに働いていました。夕方はお客様が多い時間帯ですからね。ヒヤップはぴょんと僕の肩から飛び降りて庭の方へ向かっていきました。きっとビー玉を水でっぽうで綺麗に洗うつもりなのでしょう。こうしてヒヤップを見ている間にもばかポッドの罵声が聞こえてきます。


「おいッ!コーン!そんな所でボサッと突っ立ってないで厨房手伝えッ!」


「分かってますよばかポッド。それがわざわざ買い出しに行ってやった人への言葉ですか」


「まぁまぁ2人共」


そんなやりとりの後、なんとか夕方の店のピークを乗り切り、表の方はウエイターさん達に任せて3人厨房で休憩していました。その時の事です。


突然走って現れたヒヤップが泣きながらコーンの胸に飛び込んできたのです。


「ど、どうしたんですかヒヤップ」


優しく撫でてやりながら問い掛けてもヒヤップはコーンにしがみついて泣くばかりで、何も答えてくれません。


ヒヤップが飛び出してきたすぐ後からヤナップとバオップも厨房にやってきました。なんだか困ったような顔をしています。デントはすかさずしゃがんでヤナップと目線を合わせて問い掛けました。ポッドもバオップを抱き上げます。


「ヤナップ、どうしてヒヤップは泣いているの?」


するとヤナップはジェスチャーで何かを伝え始めました。バオップも手を動かしてポッドに何かを伝えようと必死です。


ヤナップは小さい円を描いていました。バオップはヒヤップを指差しながら弱くかえんほうしゃを吹きました。その後ヤナップは泣き真似をし始めました。これはヒヤップの事でしょうか。その後バオップは何かを探すようにキョロキョロし始めました。


「うーん、何か無くしものでもしたのかなぁ…」


「ヒヤップがバオップに水鉄砲打ったとかはどうだ?」


「でも最初の小さい円はなんの事だろう…」


「………あ、もしかして」


小さい円、水鉄砲……コーンには何か思い当る節がありました。あのビー玉です。もしかして、水鉄砲か何かで洗っているうちに無くしてしまったんじゃ…


気が付いた時には僕はヒヤップを机の上に降ろして駆け出していました。デントとポッドは僕がいきなり駆け出したのを見て驚いています。後ろからおい何処に行くんだよと声が聞こえたような気もしましたが構っている暇はありません。


僕は慌てて庭へ出てビー玉を探し始めました。庭の草木が濡れている様子を見るとヒヤップはこの辺りで水鉄砲をしたに違いありません。しかし、外はもう夜。暗くて庭の細かい所まで探すのは難しいです。


後からデントとポッドがやってきました。僕が2人にビー玉の事を説明すると2人は頷いて何処かへ行ってしまいました。きっとビー玉探しに協力してくれる筈です。ヒヤップもヤナップもバオップも一緒になって探します。


途中、ポッドが暗いから、と言って懐中電灯を持って来てくれました。素直に感謝の言葉を述べてそれを受け取るとポッドはなんだか嬉しそうにしていましたね。ポッドにデントの事を尋ねると彼は庭の外へ探しに行っているようで戻ってきていないようです。


お店を閉じる時間帯になっても僕達はビー玉を探し続けました。ヒヤップの辛い顔を見る事は、僕達にとってとても辛い事でしたから。あきらめたくなかったんです。…でも、さすがに1時間以上も探して見つからないとなると、店の事もありますし、そろそろ探すのを止めなくてはなりません。


ヒヤップはもう見つからないと思ったのでしょう。頭のふさをしゅんと垂らしてずっと俯いていました。そんな時でした。いつの間にか帰ってきていたデントが僕の肩をそっと叩いて耳元で囁いたのです。


ヒヤップには内緒で、僕の部屋に来てね、そこにポッドもいるから。


一体何をするつもりなのでしょうか。僕はトイレに行くふりをしてデントの部屋に向かいました。


デントは僕を部屋に通すと、明るい笑顔で、ねえ、いいもの見つけたんだ!と言って手を広げました。デントの手のひらにはビー玉がのっていました。それもいろんな色の。きらきらと輝くビー玉はどれも綺麗です。


「ポッドがね、僕達が小さい時に遊んでたビー玉を持ってたんだよ!」


きゃっきゃと嬉しそうにはしゃぐデントはまるで子供みたいです。デントの隣にいるポッドは、それを、ヒヤップにやったらどうだ?と笑顔で言いました。僕は、ヒヤップの事をこんなにも大切に思ってくれている兄弟に感謝すると同時に、兄弟達が昔の思い出を、こんなにも大切にしてくれていた事が嬉しくて、2人を思いっきり抱き締めたのでした。











「ヒヤップ、おいで」


その後、元気のなさそうにこちらへと歩いてきたヒヤップに僕は沢山のビー玉を見せてあげました。ヒヤップは目をまあるくして驚いていましたがとても嬉しそうでした。


「そのビー玉、僕達が小さい時に遊んでいたものなのですよ」


そう言うとヒヤップはまた嬉しそうにして微笑み僕の掌にあるビー玉を3つとって僕に見せてきました。


そのビー玉はあお、みどり、あかのビー玉でした。


「まるで俺達みたいだな」


ポッドが笑いました。デントも懐かしむような目でその3つのビー玉を見つめています。


結局ヒヤップは、あおいビー玉を一つもらうことにしたようです。ヤナップはみどり、バオップはあかのビー玉をもらうことになり、みんな幸せそうです。


「もしかして…さ、ヒヤップが無くしたビー玉って青色だったんだよね?」


「ええ、そうですよ」


「やっぱり…。ヒヤップは、その綺麗な青いビー玉をコーンみたいだと思って大事にしてたんじゃないのかな…?」



「…ヒヤップ、それは本当なのかい?」


ひゃぷ!と元気よく返事をしたヒヤップは僕に抱き着いてきました。ほんとにかわいいやつです。僕はそんなヒヤップを抱きしめながら、輝くビー玉をずーっとずっと見つめていたのでした。












ガラス玉に映る真実





title:シングルリアリスト









大ッッッッッ変お待たせ致しました!三つ子とお猿でほのぼのということでコーン目線の三つ子とお猿を書かせていただきました!本当に遅くなってしまいすみません…!匿名さまのみお持ち帰りどうぞ!