小瓶に入った角砂糖を指先で一つつまんで紅茶に放り込む。するとぽちゃんと紅茶が小さく跳ねる音がする。その音を聞いてから小さなスプーンを手に取って紅茶を軽く掻き混ぜると角砂糖はあっさりと溶けて無くなってしまうの。それはどう考えても当たり前の事なのに何処か寂しさや空しさを覚える。


わたしも、いずれはこんな風に、あっさりと溶けて見えなくなってしまうのかなって。彼の記憶の中を占めるくらい大きなものになりたいのに、こんな風に溶けて同化してしまうのかなって。


どうしようもない気持ちにはあ、と一つため息をつくと紅茶から立ち上ぼる微かな湯気が吐息で揺れた。


目の前で同じように紅茶を見ていたユウキ君は何も言わない。わたしのこの感情にも気が付いてない。きっとこの先もこの気持ちに気付いてくれないまま、また図鑑完成の為とか言って遠い所へ行ってしまうんだろうなぁ。そう思うとやっぱり悲しいし、彼を引き止めたいとか思っちゃうけれどそれは単純にわたしのわがまま。そんなのだめだよね。


「なんでため息なんか付いてるんだよ」


少ししてユウキ君がわたしに声を掛けてくれたけど、そんな彼の声でさえ今は嫌なものに聞こえてしまう。わたしがため息付いてるのは貴方のせいなのに。そう言えたらきっと楽なんだろうけど言える訳がない。わたしは必死に声を絞り出した。


「え、なんでもないよ!ちょっと疲れてただけ」


「嘘だ」


わたしの言葉にユウキ君はすぐに言い返した。動揺で呼吸が乱れるのが分かる。


「前から思ってたけどさ、お前、いつも俺に何か隠してるよな」


一人でいつも思ってても、それを言わないから。だから俺もどうしたらいいのか分からない。


「…俺に不満があるなら言えよ」


そうわたしに言い放ったユウキ君の言葉はとても鋭いものだったけれど、ユウキ君の目はとても優しく、そして何処か悲しそうにも見えた。


わたしは何も言い返せなかった。今思えば、わたしは、ユウキ君に心の中を見透かされていたのかも知れない。


無音が支配していた空間に、ふと音が産まれた。ユウキ君が椅子を少し引いて立ち上がる音だ。それと同時に頭上に感じる気配。次の瞬間、ユウキ君の手がわたしの頭をゆっくりと撫でていた。その手は優しい温もりに満ちている。


「なんか子供扱いされてるみたい」


「だってお前子供じゃん」


「え、ひどいよユウキ君」


そんなやり取りに自然と笑みが零れる。ああ、やっぱりわたしはユウキ君のその笑顔が好きだなぁ。出来るならこの笑顔をずっと見ていたいなぁ、なんて。ちょっと悔しいから仕返しにユウキ君の頭を帽子ごとわしゃわしゃ撫でてやった。


気持ちって隠してても、自然と相手には伝わる訳で。気がついてないと思ってたのは私の勘違い。ユウキ君はきっと最初から気付いてたんだろう。わたしがユウキ君のことこんなにも想ってるって事に。なら、素直な気持ちを、心の中で言っておこう。言葉にしなくても、きっとこの気持ちも彼に伝わるだろうから。


あのね、わたしが悲しんだり、悩んだり、喜んだりするのは、全部全部、ユウキ君、あなたが好きだからなんだよ


心の中で呟いたその言葉は、ユウキ君の耳に届くことは無いけれど。きっと伝わる。そんな自信があった。でもなんだか恥ずかしいなぁ。顔も少しずつ熱くなってきた。それをユウキ君に見られたくなかったからわたしはおもむろにに紅茶のカップを手にして口元へ運んだ。それで顔が隠れる訳じゃないのにね。そして驚いたの。角砂糖1つ入れただけの紅茶がびっくりするくらいに甘かったから。










想いを一粒







title:hence





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やづるさん大変お待たせ致しました…!お待たせし過ぎて本当に申し訳ないです…!ユウハルで両片想いということでユウキ(→)←ハルカなテイストで書かせて頂きました!
大変楽しかったですうふ(*´`*)