「えへへー気持ちいいね」 「そうですね」 緑の芝生に寝転がって、空を見上げる。小さい時はよくそんな風に空を見ていたものだ。青い空をゆったりと流れる雲を見ながら、あの雲は何かの形に似ているだとか、空の向こうには何があるのだろうだとか、ぼんやりとそんな事を思ったりしていたっけ。昔はそれがよくある事だったのに、いつの間にか空をちゃんと見ることすらしなくなってしまったのは何故だろう。そして、久々に空を見ているだけというのに、僕はどうしてこんなにも緊張しているのだろう。 今までに感じた事がないくらいの速さの鼓動。微かに震える手。なんだろう。本当にどうしちゃったのかな、僕。心臓の高鳴りがうるさいくらいに頭に響く。 「楽しいね」 そう言いながら横に寝転がっていたアイリスがこちらへと笑い掛けてくるものだから、僕は反射的に目を逸してしまった。どくん、どくん、心臓の高鳴りがより一層強くなる。目を逸すという僕の不自然な行動を見たアイリスはほんのすこし機嫌を悪くしてしまったようでしゅんと表情を曇らせた。少し悲しそうにも見えるその表情を見て僕は罪悪感を覚える。 「デントおにーちゃんは楽しくないの…?」 「そっ、そんな事ないですよ!」 ただ…ちょっと緊張してるんです、と相変わらず目を合わせられずに本音を言うと、アイリスは少しびっくりしたように、それでいてちょっと嬉しそうにくすりと笑った。 「デントおにーちゃんも?実はあたしもなんだ」 え、アイリスもですか?と思わず彼女の方を見やると今度はばっちりと目が合ってしまった。きらきらと太陽の光を浴びて輝くアイリスの瞳にしっかりと僕が映る。どうしよう。目が逸らせない。 「あたしね、思うんだけどね、きんちょうするのは、デントおにーちゃんと一緒だからだと思うんだ」 えっ…、アイリスのその言葉に僕はぽかんと口を開けてみっとない声を漏らす事しか出来なかった。だって、 「…僕も…アイリスといると緊張するんです」 アイリスに言われて気が付いた。そうか、僕が緊張していたのはアイリスとこうやって2人でいたからなんだ。そう思った時、嬉しさからか心がふんわりと暖かくなって僕の表情は自然と綻んだ。でも、その穏やかな表情とは裏腹に相変わらず心臓の高鳴りは収まる所を知らない。なんでだろう。むしろさっきよりもずっと酷くなったような気がする。 この不自然な鼓動と、胸が苦しくなったり暖かくなったりするこの気持ちはなんだろう。緊張、というよりも、もっと別の何かのような気がする。でも、もっと別の何かって…何?。ゆっくりと思考を巡らせて考えてみる。でも本当は考えてみる必要も無かったんだ。何故なら隣にいるアイリスを見ているだけでその答えにたどり着いてしまったから。 わぁ、一緒だね!と楽しそうに笑うアイリスをよそに僕の心拍数は更に上昇し、そしてそれに比例するかのように顔が熱くなっていく。僕はそれらをアイリスに気付かれないようにごく自然に、そっと空を見上げた。 ああ神様、これが恋というものなのですか? その小さな問い掛けに答える声は勿論あるはずも無く、何処までも広がる空に静かに溶けただけだった。 桃色の空に投げかけた *** 伝愛企画様に提出!素敵な企画をありがとうございました! |